M.ラヴェル:『ピアノ三重奏曲』
ヴァイオリン:川久保賜紀、チェロ:遠藤真理、ピアノ:三浦友理枝
はい、これ、自信を持ってオススメできる名盤なのですよ(断言)。
川久保賜紀(ヴァイオリン)、遠藤真理(チェロ)、三浦友理枝(ピアノ)の若き女流ソリスト3人が初めて組んだトリオで、挑んだのは、モーリス・ラヴェルのピアノ・トリオ。
ラヴェルと言えば『ボレロ』が有名で、次に聴かれるのがムソルグスキー作曲『展覧会の絵』の編曲かな。
それゆえ「オーケストレーション(管弦楽法)の魔術師」なんて言われるけれど、彼の真価は繊細な和声をひしひしと体感できるピアノ曲や室内楽曲なんじゃないかなと個人的に思う。
中でもピアノ・トリオは第一次世界大戦従軍中という生死をかけた状況で書かれた渾身の一曲で、透明な美しさが極まった傑作なのです。必聴よ。
まず冒頭は三浦のピアノソロ。いつ聴いてもハッとさせられる感傷的なバスク地方のメロディーが、楽譜の指示よりかなりゆったりめで右手で奏でられる。
そしてそれを支える左手の伴奏。安定感がありながらも強くなりすぎず温もりに満ちたタッチが、あ、気持ちいい……。早くもこの演奏が只者ではないことが分かります。
これは襟を正さなければいけないぞ、と思った矢先に登場したのが、川久保と遠藤のユニゾンによる主題のリフレイン。
まるで一つの楽器のような呼吸の合わせ方に、思わずこちらも息を合わせてしまう。ここまでディナーミク(音の強弱)やヴィブラートってぴったり揃うもの? パーフェクト。1分しないうちにノックアウトされたのでした。
以降も最後までその場その場で見事な調和・表現が繰り広げられる。年が近いから?同じ日本人だから?ともかく一体感が心地いい。
一瞬一瞬に聴き惚れて全体に関心が行かなくなる弱点もあるけれど、弱点を凌駕する魅力に満ち溢れている。全然いいよ。
ピカソ展のような生い立ちから作品の変遷を知るといったある種アカデミックな企画展ではなく、様々な名画が次から次に並ぶオルセー美術館の華やかな常設展示をゆっくり歩いて見て回るような感じですかね。
個々の演奏では、まずヴァイオリン川久保の、内に向かうエモーショナルな響きに驚かされる。この押し付けがましさと対極の情感は誰かに似ている……と思ったら、そう、宇多田ヒカルですね。こういう資質って、努力で獲得できるものじゃない。持って生まれた才能ですね。
グリッサンドを多用しているが、いやらしくなる一歩手前の表現で、曲にほのかなアダルトな味わいを加えていて美味。
演奏をリードするのは、チェロ遠藤。低音では落ち着いて豊かで太い響きを保ち続け、安定感と幅を与えている。中高音では気丈さと繊細さの境を揺れ動く見事な表現。フラジオレットが散見される、もともと表現の幅が大きいスコアだが、ためらいがないというか、思い切りがよく、説得力がある。僕個人としてこういう風に弾きたいと思うことを実現してくれていて、うーん、最高。
ピアノ三浦が一番健気で冷静な運び。日本的なおしとやかな美を感じ、ちょっと控えめすぎかとも思うが、もう少し主張してくると全体バランスが悪くなるだろうから絶妙なところなのかもしれない。秘すれば花、見事。なお、正しく均等に鳴らされるアルペジオの美しさが絶品であることは記しておかねば。珠玉というが、本当に音の宝石が煌めくよう。はぁ、惚れ惚れする……。
この素晴らしきトリオは今も活動中。で、書き忘れたけど、このCDで最大の残念が、くぐもり気味な録音。そういう意味でも、生で聴きたいな。
ヴァイオリン:川久保賜紀、チェロ:遠藤真理、ピアノ:三浦友理枝
はい、これ、自信を持ってオススメできる名盤なのですよ(断言)。
川久保賜紀(ヴァイオリン)、遠藤真理(チェロ)、三浦友理枝(ピアノ)の若き女流ソリスト3人が初めて組んだトリオで、挑んだのは、モーリス・ラヴェルのピアノ・トリオ。
ラヴェルと言えば『ボレロ』が有名で、次に聴かれるのがムソルグスキー作曲『展覧会の絵』の編曲かな。
それゆえ「オーケストレーション(管弦楽法)の魔術師」なんて言われるけれど、彼の真価は繊細な和声をひしひしと体感できるピアノ曲や室内楽曲なんじゃないかなと個人的に思う。
中でもピアノ・トリオは第一次世界大戦従軍中という生死をかけた状況で書かれた渾身の一曲で、透明な美しさが極まった傑作なのです。必聴よ。
まず冒頭は三浦のピアノソロ。いつ聴いてもハッとさせられる感傷的なバスク地方のメロディーが、楽譜の指示よりかなりゆったりめで右手で奏でられる。
そしてそれを支える左手の伴奏。安定感がありながらも強くなりすぎず温もりに満ちたタッチが、あ、気持ちいい……。早くもこの演奏が只者ではないことが分かります。
これは襟を正さなければいけないぞ、と思った矢先に登場したのが、川久保と遠藤のユニゾンによる主題のリフレイン。
まるで一つの楽器のような呼吸の合わせ方に、思わずこちらも息を合わせてしまう。ここまでディナーミク(音の強弱)やヴィブラートってぴったり揃うもの? パーフェクト。1分しないうちにノックアウトされたのでした。
以降も最後までその場その場で見事な調和・表現が繰り広げられる。年が近いから?同じ日本人だから?ともかく一体感が心地いい。
一瞬一瞬に聴き惚れて全体に関心が行かなくなる弱点もあるけれど、弱点を凌駕する魅力に満ち溢れている。全然いいよ。
ピカソ展のような生い立ちから作品の変遷を知るといったある種アカデミックな企画展ではなく、様々な名画が次から次に並ぶオルセー美術館の華やかな常設展示をゆっくり歩いて見て回るような感じですかね。
個々の演奏では、まずヴァイオリン川久保の、内に向かうエモーショナルな響きに驚かされる。この押し付けがましさと対極の情感は誰かに似ている……と思ったら、そう、宇多田ヒカルですね。こういう資質って、努力で獲得できるものじゃない。持って生まれた才能ですね。
グリッサンドを多用しているが、いやらしくなる一歩手前の表現で、曲にほのかなアダルトな味わいを加えていて美味。
演奏をリードするのは、チェロ遠藤。低音では落ち着いて豊かで太い響きを保ち続け、安定感と幅を与えている。中高音では気丈さと繊細さの境を揺れ動く見事な表現。フラジオレットが散見される、もともと表現の幅が大きいスコアだが、ためらいがないというか、思い切りがよく、説得力がある。僕個人としてこういう風に弾きたいと思うことを実現してくれていて、うーん、最高。
ピアノ三浦が一番健気で冷静な運び。日本的なおしとやかな美を感じ、ちょっと控えめすぎかとも思うが、もう少し主張してくると全体バランスが悪くなるだろうから絶妙なところなのかもしれない。秘すれば花、見事。なお、正しく均等に鳴らされるアルペジオの美しさが絶品であることは記しておかねば。珠玉というが、本当に音の宝石が煌めくよう。はぁ、惚れ惚れする……。
この素晴らしきトリオは今も活動中。で、書き忘れたけど、このCDで最大の残念が、くぐもり気味な録音。そういう意味でも、生で聴きたいな。