チャイコフスキー国際コンクール ?配信日:2011年5月19日 | 配信テーマ:クラシック
現在、世界には膨大な数の国際音楽コンクールが存在し、毎日どこかで開催されているといっても過言ではない。なかでもピアノ・コンクールが一番多く、年間60以上のコンクールが行われている。
スイスのジュネーブに本拠を置く国際音楽コンクール世界連盟は1957年に創設され、現在も世界各地から申し込みのある国際コンクール申請の審査に余念がない。
そのなかにあって、歴代の優勝者&入賞者の活躍ぶりからコンクール史上に燦然と輝くピアノの3大コンクールといえば、ショパン国際ピアノ・コンクール、チャイコフスキー国際コンクール、エリザベート王妃国際コンクールだろう。
ショパン国際ピアノ・コンクールは昨年10月に終わったばかりで大きな話題となったが、次いで今年の6月にはいよいよチャイコフスキー国際コンクールが幕を開ける。
このコンクールはピアノ、ヴァイオリン、チェロ、声楽の4部門からなり、今年は実行委員長を指揮者のワレリー・ゲルギエフが務め、エグセクティブ・ディレクターには実績のあるアメリカ人のリチャード・ロジンスキが就任した。それゆえ、さまざまな面で改革がなされたが、もっとも大きな変化はモスクワとサンクトペテルブルクという2都市開催になったことである。
モスクワで行われるのはピアノ部門とチェロ部門。サンクトペテルブルクではヴァイオリン部門と声楽部門が行われる。6月14日にはモスクワ音楽院大ホールで19時からオープニングコンサートが開かれ、ウラディーミル・スピヴァコフ指揮ロシア・ナショナル管弦楽団が演奏する。
翌15日からモスクワとサンクトペテルブルクの両都市で第1次予選(モスクワ音楽院大ホールおよび小ホール、サンクトペテルブルク音楽院グラズノフホール、サンクトペテルブルク国立アカデミックカペラ、モスクワ・チャイコフスキーコンサートホール、サンクトペテルブルク・フィルハーモニーホール、サンクトペテルブルク・マリインスキー劇場コンサートホール)が始まり、第2次予選、ファイナルと進み、6月30日に審査発表と授賞式が行われる。
そして7月1日(モスクワ音楽院大ホール)と2日(サンクトペテルブルク・マリインスキー劇場コンサートホール)に入賞者ガラコンサートが開催され、全スケジュールが終了することになっている。
国際コンクールというのは最初の書類審査の段階できびしく審査される場合が多いが、メジャーなコンクールにはすでにプロとして活動をしている人もたくさん受けにくる。プロフィールの欄にさまざまなコンクールの受賞歴がずらりと記入されていることからもわかるように、みなタイトルを切に希望しているわけだ。
コンクールはいわゆるスタート台。その後の活動いかんによって演奏生命はまちまち。華々しく優勝を飾っても、その後数年で名前を聞かなくなってしまったり、逆にコンクールでは涙をのんだものの、以後発奮して国際舞台に躍り出たりと、彼らの人生にはまさに生きたドラマを感じる。ずらりと並んだ審査員に採点されているという緊張感から、その演奏は研ぎ澄まされた神経と緊迫感がただようもので、類稀なる集中力が支配する。だからこそ、コンクールは興味深い。
演奏を聴きながら手に汗握るという、まさに胸がどきどきするような、心が高揚するような感覚を味わうのである。
そして、本選が終わって順位の発表があった途端、いまのいままで無名だった演奏家に世界中からコンサートの契約やレコーディングの話が舞い込むということが起きる。一瞬にしてシンデレラまたはシンデレラ・ボーイになったこの日から、彼らの新たな闘いは始まるのである。今度はコンクールのように採点される闘いではなく、本物のプロとしての長い自己との闘いが…。
次回は今回の参加者、課題曲、ゴージャスな審査員の顔ぶれを見ていきたい。
チャイコフスキー国際コンクール ?配信日:2011年5月26日 | 配信テーマ:クラシック
第14回チャイコフスキー国際コンクールは、各部門の審査員がすばらしい顔ぶれだ。現役の音楽家や作曲家が勢ぞろいし、審査員席を見るだけでも心が高揚する気分になるに違いない。
それでは、まずはピアノ部門から。
ドミトリー・アレクセーエフ(ロシア)
ウラディーミル・アシュケナージ(アイスランド、本選のみ)
ミシェル・ベロフ(フランス)
イェフィム・ブロンフマン(アメリカ&ロシア、本選のみ)
ピーター・ドノホー(イギリス)
バリー・ダグラス(イギリス)
ネルソン・フレイレ(ブラジル)
エフゲニー・コロリオフ(ロシア)
デニス・マツーエフ(ロシア、本選のみ)
ウラディーミル・オフチニコフ(ロシア)
ミハイル・ヴォスクレンスキー(ロシア)
ヴァイオリン部門もきら星のごとく。
ユーリ・バシュメット(ロシア、本選のみ)
アンドレス・カルデネス(アメリカ)
ジョン・コリリアーノ(アメリカ)
マーティン・エングストローム(スウェーデン)
レオニダス・カヴァコス(ギリシャ、本選のみ)
ボリス・クシュニール(オーストリア/ロシア)
アンネ=ゾフィー・ムター(ドイツ、本選のみ)
バリー・シフマン(カナダ)
セルゲイ・シュタードラー(ロシア)
ヴィクトル・トレチャコフ(ロシア)
マキシム・ヴェンゲーロフ(イスラエル/ロシア、本選のみ)
さらにチェロ部門も名手ぞろい。
マリオ・ブルネロ(イタリア、本選のみ)
コン・チャン・チョー(韓国)
エンリコ・ディンド(イタリア)
ダヴィド・ゲリンガス(リトアニア/ドイツ)
サー・クライヴ・ギリソン(イギリス)
リン・ハレル(アメリカ)
ラルフ・キルシュバウム(アメリカ)
アントニオ・メネシス(ブラジル)
クシシュトフ・ペンデレツキ(ポーランド、本選のみ)
グスタフ・リヴィニウス(ドイツ)
セルゲイ・ロドギン(ロシア)
マルッティ・ロウシ(フィンランド)
最後に声楽部門だが、ここもゴージャス。
イダル・アブドラザコフ(ロシア)
ウラディーミル・アトラントフ(ロシア)
テレサ・ベルガンサ(スペイン)
オルガ・ボロディナ(ロシア)
エレナ・コトルバス(ルーマニア)
フェルッチョ・フルラネット(イタリア、本選のみ)
ライナ・カバイヴァンスカ(ブルガリア)
エレナ・オブラスツォワ(ロシア)
レナータ・スコット(イタリア)
さて、課題曲を見てみると、こちらも規約が一新され、コンチェルトを3曲演奏する部門がある。室内楽の要素も取り入れられ、さらに声楽以外の部門のセミファイナルには委嘱した現代作品が課題曲となるなど、破格の実力を要求されるよう変更が施された。
DVD審査と書類選考によって選ばれた参加者は、ピアノ部門30名、ヴァイオリン部門27名、チェロ部門25名、声楽部門は男女各20名となっている。
日本からの参加者は非常に少なく、ピアノ部門の犬飼新之助、ヴァイオリン部門の木嶋真優のふたりだけである。ぜひとも頑張ってほしい。なお、コンクールの模様はインターネット配信されることが決まり、リハーサルや指揮者と参加者との打ち合わせなどもライヴ配信されることになっている。
次回は、チャイコフスキー国際コンクールの歴史と優勝者、入賞者をたどってみたい。
チャイコフスキー国際コンクール ?配信日:2011年6月2日 | 配信テーマ:クラシック
ショパン国際ピアノ・コンクールに負けず劣らず、権威と伝統と実績を誇っているのがチャイコフスキー国際コンクールである。
このコンクールは1958年5月16日に開始された。当時はフルシチョフ政権時代。雪解け後、初の国際コンクールとして発足し、旧ソ連文化省とコンクール組織委員会が運営にあたり、文字通り国家的行事としてスタートした。
これはロシアが世界に誇る大作曲家ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー(1840〜1893)の名を冠したもので、第1次予選、第2次予選、本選の3次にわたる審査からなる。4年に1度開かれ、今年で第14回を迎える。
このコンクールは日本の若手演奏家に非常に人気が高く、これまで4人の優勝者を数える。1990年ヴァイオリン部門の諏訪内晶子、1998年声楽部門の佐藤美枝子、2002年ピアノ部門の上原彩子、2007年ヴァイオリン部門の神尾真由子である。
他にチェロ部門があり、各々の部門における日本人の入賞者も非常に多い。
チャイコフスキー国際コンクールもショパン国際ピアノ・コンクールと同様に作曲家の名を冠しているが、課題曲はチャイコフスキーのみならず非常に幅広く、開催時期も約1カ月に及ぶため、参加者が体調を崩すこともきわめて多い。
演奏順は原則としてくじ引きで決められるが、この順序も参加者には大きく影響し、午前中の早い時間帯が苦手な人もいる半面、延々待たされて夜になると集中力が持たない場合もある。
一番目に弾くことになった人はくじを引いた途端に絶句し、途方に暮れるそうだ。最初というのはいやが上にも緊張感が高まるからである。
チャイコフスキー国際コンクールの名を一気に高めたのは、冷戦後まもなく開催された第1回でアメリカ出身のピアニスト、ヴァン・クライバーンが華々しい優勝を遂げたことによる。
彼はスケールの大きなみずみずしい演奏とスター性で耳の肥えたロシアの聴衆をも味方につけ、圧倒的な支持を受けた。ニューヨークでの凱旋パレードは、いまなお語り継がれるほどの大フィーバーぶりだった。
なお、諏訪内晶子の場合はコンクール開催中に発熱し、体調を崩しながらの挑戦となった。
佐藤美枝子の場合は、曲目の登録ミスにより、数日間でロシア語のオペラ・アリアを暗譜せざるをえない窮地に立たされた。
上原彩子は1998年に受けて本選に残れなかったため、モスクワ音楽院のホールでチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番を絶対に弾きたいという一心で4年間演奏を徹底的に見直し、ついに優勝にこぎつけた。
神尾真由子はコンクールの最中にも審査員を務めていた恩師のザハール・ブロンがあまりにこまかく指示を出すため、精神的な疲労がたまり、極限状態だったという。
ただし、モスクワではコンクール開催時にはタクシードライバーやカフェのウェイターもみなライヴに耳を傾け、それぞれ応援したい人を見つけ、エールを送る。町全体が音楽に包まれる――そんな熱気に満ちた1カ月となるのである。その雰囲気に憧れて受ける人も後を絶たない。
そして今年はもう一カ所、サンクトペテルブルクが開催地に加わった。両都市でどんな戦いが繰り広げられるか、興味は尽きない。
チャイコフスキー国際コンクールの覇者、ダニール・トリフォノフの快進撃配信日:2011年9月29日 | 配信テーマ:クラシック
今年6月から7月にかけてモスクワで開催された第14回チャイコフスキー国際コンクールのピアノ部門の優勝者は、ロシア出身のダニール・トリフォノフ、20歳。彼は昨年10月にワルシャワで行われたショパン国際ピアノ・コンクールでは第3位入賞と最優秀マズルカ演奏賞を受賞したが、その直後にさらなる国際コンクールへの参加を決め、今年5月にイスラエルで行われたルービンシュタイン国際コンクールに参加、見事優勝を果たしている。
その直後にモスクワに戻り、ロシア人の憧れであるチャイコフスキー国際コンクールを受け、ここでも優勝に輝き、さらにヴァイオリン、チェロ、声楽の全部門を通してのグランプリも受賞している。
「ぼくは、コンクールはできる限り若いときに受けたほうがいいと思っているんです。去年のショパン・コンクール後、もっと上を目指したいと思い、ルービンシュタインとチャイコフスキーの両コンクールに挑戦しようと思いました。もちろん異なる課題曲がたくさんあり、猛練習を必要としましたが、それより大変だったのはルービンシュタイン・コンクールの優勝者に約束されたコンサートをすべてこなすことだったのです」
同コンクールは優勝者に多くのコンサートの機会を与えている。これは若いピアニストにとってとても貴重であり、名誉なことでもある。ただし、その期間が問題だった。
「優勝が決まった直後の13日間で12のコンサートが入っていました。イスラエル各地を回り、必死でステージをこなし、その間に次なるチャイコフスキー・コンクールの準備もしなければならなかった。もうほとんどトランス状態でしたが、1回1回のリサイタルは決して手を抜くことはできません。なんとか集中力を保って12回を終え、その日のうちにモスクワに飛び、コンクールの会場でピアノ選びをしたのです」
9月、「チャイコフスキー国際コンクール優勝者ガラ・コンサート」とリサイタルのために来日したトリフォノフは、終わったばかりのコンクールについて淡々と語ったが、その努力と気力と体力と集中力のすごさには唖然としてしまった。
「やればできるものですね(笑)。ぼくはどんなに疲れていても、ピアノに向かうと活力が湧いてくるのです。長年の友であるピアノが力を与えてくれたのでしょうか。もちろんロシア人としてチャイコフスキー・コンクールで優勝することはとても名誉なことであり、大いなる喜びですが、大変なのはこれからです。常にコンクールの優勝者として恥じない演奏をしなければならないからです。それをプレッシャーと感じることなく、前に進む力に変えたいと思っています」
トリフォノフは1991年ロシアのニジニ・ノヴゴロド生まれ。5歳半でピアノを始め、グネーシン音楽院でタチヤーナ・ゼリクマンに、現在はクリーヴランド音楽院でセルゲイ・ババヤンに師事している。両先生とも、伝統的なロシア・ピアニズムの継承者である。これまで多くのコンクールで好成績を収め、すでに世界各地で演奏活動を行っている。
「でも、チャイコフスキー・コンクール後は、一気にコンサートの数が増えました。いまは年間85回入っています。ですからもっと新しい作品を勉強し、レパートリーを増やしていかなれければなりません。これが目下の課題です。子どものころから多くの人に演奏を聴いてもらいたいと思ってきましたが、その夢が実現しつつあります。ここで気をゆるめることなく、正しい成長ができるよう、自分を律していかなくてはと考えています」
トリフォノフのピアノは、繊細な美音と情感の豊かな表現とたっぷりとした歌心が特徴。ショパン国際コンクールのときはナイーブで清涼感あふれる響きに心がとらわれたが、たった9カ月で自信に満ちた説得力のあるスケールの大きな音楽に変貌を遂げた。20歳の新鋭、恐るべし!!
彼が2010年5月と11月に録音したデビュー・アルバム「トリフォノフ・プレイズ・ショパン」(ユニバーサル)でも、みずみずしい音色と前進するエネルギーは全開。なお、次の来日は2012年4月の「第14回チャイコフスキー国際コンクール優勝者ガラ・コンサート」。また一気に階段を駆け上がり、進歩を遂げた演奏が披露されるに違いない
現在、世界には膨大な数の国際音楽コンクールが存在し、毎日どこかで開催されているといっても過言ではない。なかでもピアノ・コンクールが一番多く、年間60以上のコンクールが行われている。
スイスのジュネーブに本拠を置く国際音楽コンクール世界連盟は1957年に創設され、現在も世界各地から申し込みのある国際コンクール申請の審査に余念がない。
そのなかにあって、歴代の優勝者&入賞者の活躍ぶりからコンクール史上に燦然と輝くピアノの3大コンクールといえば、ショパン国際ピアノ・コンクール、チャイコフスキー国際コンクール、エリザベート王妃国際コンクールだろう。
ショパン国際ピアノ・コンクールは昨年10月に終わったばかりで大きな話題となったが、次いで今年の6月にはいよいよチャイコフスキー国際コンクールが幕を開ける。
このコンクールはピアノ、ヴァイオリン、チェロ、声楽の4部門からなり、今年は実行委員長を指揮者のワレリー・ゲルギエフが務め、エグセクティブ・ディレクターには実績のあるアメリカ人のリチャード・ロジンスキが就任した。それゆえ、さまざまな面で改革がなされたが、もっとも大きな変化はモスクワとサンクトペテルブルクという2都市開催になったことである。
モスクワで行われるのはピアノ部門とチェロ部門。サンクトペテルブルクではヴァイオリン部門と声楽部門が行われる。6月14日にはモスクワ音楽院大ホールで19時からオープニングコンサートが開かれ、ウラディーミル・スピヴァコフ指揮ロシア・ナショナル管弦楽団が演奏する。
翌15日からモスクワとサンクトペテルブルクの両都市で第1次予選(モスクワ音楽院大ホールおよび小ホール、サンクトペテルブルク音楽院グラズノフホール、サンクトペテルブルク国立アカデミックカペラ、モスクワ・チャイコフスキーコンサートホール、サンクトペテルブルク・フィルハーモニーホール、サンクトペテルブルク・マリインスキー劇場コンサートホール)が始まり、第2次予選、ファイナルと進み、6月30日に審査発表と授賞式が行われる。
そして7月1日(モスクワ音楽院大ホール)と2日(サンクトペテルブルク・マリインスキー劇場コンサートホール)に入賞者ガラコンサートが開催され、全スケジュールが終了することになっている。
国際コンクールというのは最初の書類審査の段階できびしく審査される場合が多いが、メジャーなコンクールにはすでにプロとして活動をしている人もたくさん受けにくる。プロフィールの欄にさまざまなコンクールの受賞歴がずらりと記入されていることからもわかるように、みなタイトルを切に希望しているわけだ。
コンクールはいわゆるスタート台。その後の活動いかんによって演奏生命はまちまち。華々しく優勝を飾っても、その後数年で名前を聞かなくなってしまったり、逆にコンクールでは涙をのんだものの、以後発奮して国際舞台に躍り出たりと、彼らの人生にはまさに生きたドラマを感じる。ずらりと並んだ審査員に採点されているという緊張感から、その演奏は研ぎ澄まされた神経と緊迫感がただようもので、類稀なる集中力が支配する。だからこそ、コンクールは興味深い。
演奏を聴きながら手に汗握るという、まさに胸がどきどきするような、心が高揚するような感覚を味わうのである。
そして、本選が終わって順位の発表があった途端、いまのいままで無名だった演奏家に世界中からコンサートの契約やレコーディングの話が舞い込むということが起きる。一瞬にしてシンデレラまたはシンデレラ・ボーイになったこの日から、彼らの新たな闘いは始まるのである。今度はコンクールのように採点される闘いではなく、本物のプロとしての長い自己との闘いが…。
次回は今回の参加者、課題曲、ゴージャスな審査員の顔ぶれを見ていきたい。
チャイコフスキー国際コンクール ?配信日:2011年5月26日 | 配信テーマ:クラシック
第14回チャイコフスキー国際コンクールは、各部門の審査員がすばらしい顔ぶれだ。現役の音楽家や作曲家が勢ぞろいし、審査員席を見るだけでも心が高揚する気分になるに違いない。
それでは、まずはピアノ部門から。
ドミトリー・アレクセーエフ(ロシア)
ウラディーミル・アシュケナージ(アイスランド、本選のみ)
ミシェル・ベロフ(フランス)
イェフィム・ブロンフマン(アメリカ&ロシア、本選のみ)
ピーター・ドノホー(イギリス)
バリー・ダグラス(イギリス)
ネルソン・フレイレ(ブラジル)
エフゲニー・コロリオフ(ロシア)
デニス・マツーエフ(ロシア、本選のみ)
ウラディーミル・オフチニコフ(ロシア)
ミハイル・ヴォスクレンスキー(ロシア)
ヴァイオリン部門もきら星のごとく。
ユーリ・バシュメット(ロシア、本選のみ)
アンドレス・カルデネス(アメリカ)
ジョン・コリリアーノ(アメリカ)
マーティン・エングストローム(スウェーデン)
レオニダス・カヴァコス(ギリシャ、本選のみ)
ボリス・クシュニール(オーストリア/ロシア)
アンネ=ゾフィー・ムター(ドイツ、本選のみ)
バリー・シフマン(カナダ)
セルゲイ・シュタードラー(ロシア)
ヴィクトル・トレチャコフ(ロシア)
マキシム・ヴェンゲーロフ(イスラエル/ロシア、本選のみ)
さらにチェロ部門も名手ぞろい。
マリオ・ブルネロ(イタリア、本選のみ)
コン・チャン・チョー(韓国)
エンリコ・ディンド(イタリア)
ダヴィド・ゲリンガス(リトアニア/ドイツ)
サー・クライヴ・ギリソン(イギリス)
リン・ハレル(アメリカ)
ラルフ・キルシュバウム(アメリカ)
アントニオ・メネシス(ブラジル)
クシシュトフ・ペンデレツキ(ポーランド、本選のみ)
グスタフ・リヴィニウス(ドイツ)
セルゲイ・ロドギン(ロシア)
マルッティ・ロウシ(フィンランド)
最後に声楽部門だが、ここもゴージャス。
イダル・アブドラザコフ(ロシア)
ウラディーミル・アトラントフ(ロシア)
テレサ・ベルガンサ(スペイン)
オルガ・ボロディナ(ロシア)
エレナ・コトルバス(ルーマニア)
フェルッチョ・フルラネット(イタリア、本選のみ)
ライナ・カバイヴァンスカ(ブルガリア)
エレナ・オブラスツォワ(ロシア)
レナータ・スコット(イタリア)
さて、課題曲を見てみると、こちらも規約が一新され、コンチェルトを3曲演奏する部門がある。室内楽の要素も取り入れられ、さらに声楽以外の部門のセミファイナルには委嘱した現代作品が課題曲となるなど、破格の実力を要求されるよう変更が施された。
DVD審査と書類選考によって選ばれた参加者は、ピアノ部門30名、ヴァイオリン部門27名、チェロ部門25名、声楽部門は男女各20名となっている。
日本からの参加者は非常に少なく、ピアノ部門の犬飼新之助、ヴァイオリン部門の木嶋真優のふたりだけである。ぜひとも頑張ってほしい。なお、コンクールの模様はインターネット配信されることが決まり、リハーサルや指揮者と参加者との打ち合わせなどもライヴ配信されることになっている。
次回は、チャイコフスキー国際コンクールの歴史と優勝者、入賞者をたどってみたい。
チャイコフスキー国際コンクール ?配信日:2011年6月2日 | 配信テーマ:クラシック
ショパン国際ピアノ・コンクールに負けず劣らず、権威と伝統と実績を誇っているのがチャイコフスキー国際コンクールである。
このコンクールは1958年5月16日に開始された。当時はフルシチョフ政権時代。雪解け後、初の国際コンクールとして発足し、旧ソ連文化省とコンクール組織委員会が運営にあたり、文字通り国家的行事としてスタートした。
これはロシアが世界に誇る大作曲家ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー(1840〜1893)の名を冠したもので、第1次予選、第2次予選、本選の3次にわたる審査からなる。4年に1度開かれ、今年で第14回を迎える。
このコンクールは日本の若手演奏家に非常に人気が高く、これまで4人の優勝者を数える。1990年ヴァイオリン部門の諏訪内晶子、1998年声楽部門の佐藤美枝子、2002年ピアノ部門の上原彩子、2007年ヴァイオリン部門の神尾真由子である。
他にチェロ部門があり、各々の部門における日本人の入賞者も非常に多い。
チャイコフスキー国際コンクールもショパン国際ピアノ・コンクールと同様に作曲家の名を冠しているが、課題曲はチャイコフスキーのみならず非常に幅広く、開催時期も約1カ月に及ぶため、参加者が体調を崩すこともきわめて多い。
演奏順は原則としてくじ引きで決められるが、この順序も参加者には大きく影響し、午前中の早い時間帯が苦手な人もいる半面、延々待たされて夜になると集中力が持たない場合もある。
一番目に弾くことになった人はくじを引いた途端に絶句し、途方に暮れるそうだ。最初というのはいやが上にも緊張感が高まるからである。
チャイコフスキー国際コンクールの名を一気に高めたのは、冷戦後まもなく開催された第1回でアメリカ出身のピアニスト、ヴァン・クライバーンが華々しい優勝を遂げたことによる。
彼はスケールの大きなみずみずしい演奏とスター性で耳の肥えたロシアの聴衆をも味方につけ、圧倒的な支持を受けた。ニューヨークでの凱旋パレードは、いまなお語り継がれるほどの大フィーバーぶりだった。
なお、諏訪内晶子の場合はコンクール開催中に発熱し、体調を崩しながらの挑戦となった。
佐藤美枝子の場合は、曲目の登録ミスにより、数日間でロシア語のオペラ・アリアを暗譜せざるをえない窮地に立たされた。
上原彩子は1998年に受けて本選に残れなかったため、モスクワ音楽院のホールでチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番を絶対に弾きたいという一心で4年間演奏を徹底的に見直し、ついに優勝にこぎつけた。
神尾真由子はコンクールの最中にも審査員を務めていた恩師のザハール・ブロンがあまりにこまかく指示を出すため、精神的な疲労がたまり、極限状態だったという。
ただし、モスクワではコンクール開催時にはタクシードライバーやカフェのウェイターもみなライヴに耳を傾け、それぞれ応援したい人を見つけ、エールを送る。町全体が音楽に包まれる――そんな熱気に満ちた1カ月となるのである。その雰囲気に憧れて受ける人も後を絶たない。
そして今年はもう一カ所、サンクトペテルブルクが開催地に加わった。両都市でどんな戦いが繰り広げられるか、興味は尽きない。
チャイコフスキー国際コンクールの覇者、ダニール・トリフォノフの快進撃配信日:2011年9月29日 | 配信テーマ:クラシック
今年6月から7月にかけてモスクワで開催された第14回チャイコフスキー国際コンクールのピアノ部門の優勝者は、ロシア出身のダニール・トリフォノフ、20歳。彼は昨年10月にワルシャワで行われたショパン国際ピアノ・コンクールでは第3位入賞と最優秀マズルカ演奏賞を受賞したが、その直後にさらなる国際コンクールへの参加を決め、今年5月にイスラエルで行われたルービンシュタイン国際コンクールに参加、見事優勝を果たしている。
その直後にモスクワに戻り、ロシア人の憧れであるチャイコフスキー国際コンクールを受け、ここでも優勝に輝き、さらにヴァイオリン、チェロ、声楽の全部門を通してのグランプリも受賞している。
「ぼくは、コンクールはできる限り若いときに受けたほうがいいと思っているんです。去年のショパン・コンクール後、もっと上を目指したいと思い、ルービンシュタインとチャイコフスキーの両コンクールに挑戦しようと思いました。もちろん異なる課題曲がたくさんあり、猛練習を必要としましたが、それより大変だったのはルービンシュタイン・コンクールの優勝者に約束されたコンサートをすべてこなすことだったのです」
同コンクールは優勝者に多くのコンサートの機会を与えている。これは若いピアニストにとってとても貴重であり、名誉なことでもある。ただし、その期間が問題だった。
「優勝が決まった直後の13日間で12のコンサートが入っていました。イスラエル各地を回り、必死でステージをこなし、その間に次なるチャイコフスキー・コンクールの準備もしなければならなかった。もうほとんどトランス状態でしたが、1回1回のリサイタルは決して手を抜くことはできません。なんとか集中力を保って12回を終え、その日のうちにモスクワに飛び、コンクールの会場でピアノ選びをしたのです」
9月、「チャイコフスキー国際コンクール優勝者ガラ・コンサート」とリサイタルのために来日したトリフォノフは、終わったばかりのコンクールについて淡々と語ったが、その努力と気力と体力と集中力のすごさには唖然としてしまった。
「やればできるものですね(笑)。ぼくはどんなに疲れていても、ピアノに向かうと活力が湧いてくるのです。長年の友であるピアノが力を与えてくれたのでしょうか。もちろんロシア人としてチャイコフスキー・コンクールで優勝することはとても名誉なことであり、大いなる喜びですが、大変なのはこれからです。常にコンクールの優勝者として恥じない演奏をしなければならないからです。それをプレッシャーと感じることなく、前に進む力に変えたいと思っています」
トリフォノフは1991年ロシアのニジニ・ノヴゴロド生まれ。5歳半でピアノを始め、グネーシン音楽院でタチヤーナ・ゼリクマンに、現在はクリーヴランド音楽院でセルゲイ・ババヤンに師事している。両先生とも、伝統的なロシア・ピアニズムの継承者である。これまで多くのコンクールで好成績を収め、すでに世界各地で演奏活動を行っている。
「でも、チャイコフスキー・コンクール後は、一気にコンサートの数が増えました。いまは年間85回入っています。ですからもっと新しい作品を勉強し、レパートリーを増やしていかなれければなりません。これが目下の課題です。子どものころから多くの人に演奏を聴いてもらいたいと思ってきましたが、その夢が実現しつつあります。ここで気をゆるめることなく、正しい成長ができるよう、自分を律していかなくてはと考えています」
トリフォノフのピアノは、繊細な美音と情感の豊かな表現とたっぷりとした歌心が特徴。ショパン国際コンクールのときはナイーブで清涼感あふれる響きに心がとらわれたが、たった9カ月で自信に満ちた説得力のあるスケールの大きな音楽に変貌を遂げた。20歳の新鋭、恐るべし!!
彼が2010年5月と11月に録音したデビュー・アルバム「トリフォノフ・プレイズ・ショパン」(ユニバーサル)でも、みずみずしい音色と前進するエネルギーは全開。なお、次の来日は2012年4月の「第14回チャイコフスキー国際コンクール優勝者ガラ・コンサート」。また一気に階段を駆け上がり、進歩を遂げた演奏が披露されるに違いない