■鳩山由紀夫氏「お説教をする立場ではないが…」
鳩山由紀夫氏
安倍総理大臣、私も総理として大変に稚拙だったと反省する身ですので、あなたに大きな顔をしてお説教をする立場ではないことを良く心得ています。ですが、せっかく機会をいただきましたので、国のあるべき姿について私見を述べさせていただきます。
安倍総理、あなたは昨年の総選挙で大勝利を収めました。勝ったのだから、自分の思い通りの法律を創るのだと力んでおられるようです。私は2009年民主党が大勝利し政権交代直後に、最もやりたかったのは、国家権力を強めるのではなく、一人ひとりの命を大切にする政治でした。安倍総理、あなたはなぜ今、時代に逆行して国家権力を強めようとされるのでしょうか。「国会運営は『国会は野党のためにある』の気持ちで」と竹下登元総理がいつも話されていたように、数を頼みに力で押し切るのではなく、野党や国民の声に耳を傾けることを心掛けることが大切ではないでしょうか。今、国民の多くが「戦争が出来る国」になることを心配しています。そして、安保法制の法案が今国会で成立することに反対しています。総理自身も「国民の理解が進んでいない」ことを認めておられますが、「国民の理解が進んでいない」というより、「国民の理解が進むほど反対が増える」と理解するべきでしょう。
なぜなら、総理の説明を伺うほどに、時代認識の誤りや矛盾に、国民は気が付き始めているからです。総理はことある毎に、「安保環境が大きく変わる中で」と枕詞のように話されます。世界情勢が緊張感を増してきているかのように聞こえますし、メディアもそのように報道します。総理は4、50年前の状況と比べておられるようですが、その時代には米ソ冷戦が激化し、キューバ危機やベトナム戦争がありました。今よりはるかに物騒な時代でした。現在の米ロが戦端を開くことはあり得ませんし、米中も戦争はしません。あまり報道されませんでしたが、昨年オバマ大統領が来日した際の記者会見で、「小さな岩のことで中国と争うのは愚の骨頂」と諌めた通りです。安保環境が悪化しているならまだしも、その時よりはるかに良くなっているにも拘らず、「戦争に参加するための法案」を、なぜ今更議論するのでしょうか。
総理は集団的自衛権を分かりやすく説明するつもりで、アメリカ本国や離れが火事の時に日本が火消しをすることだと例示されましたが、火事と戦争はまるで違います。火事は消せば済みますが、戦争は協力すれば、敵が攻撃する可能性が生まれるからです。後方支援は直接的な武力行使ではないと言い張っても、敵は兵砧を断つ戦略に出るのが鉄則ですから、真っ先に狙われます。逃げれば全滅でしょう。
また、総理はホルムズ海峡が封鎖されたら、日本に原油が来なくなる。だからホルムズ海峡に敷設された機雷の除去の手伝いをする必要性があると、しばしば例として挙げますが、これこそ時代認識の大きな誤りでしょう。総理は特定の国を想定していないと逃げていますが、イランを念頭においておられることは明らかです。かつて私がイランを訪問した際、国内から大きな非難を浴びましたが、そのときに私がアフマディネジャド大統領に申し上げたのは、原子力の平和利用に徹するとしても理解されるには時間がかかるので、日本を見習って辛抱強く対話路線で交渉してほしいということでした。その後、イランは辛抱強く対話を続けてくれたと思います。そして漸く6か国との協議が最終合意にまで到達しました。イランとアメリカやイスラエルとの間の不信感が完全に拭えたとは思いませんが、少なくともホルムズ海峡に機雷が敷設されるような環境では全くないことだけは明白です。総理は適切な具体的な例が見つからないので、このような例を挙げられたのだと推察いたしますが、具体的な例がないということは、法案に今日的な必要性がない証左でしょう。
総理、そもそも集団的自衛権を限定的であれ行使できるようにするには、憲法改正が必要です。どうしても行使すると言うのなら、憲法改正を堂々と行ってからです。国の安全保障の根本に関わる議論を変更するのですから、表玄関から正直に入らなければ、生涯禍根を残すでしょう。ただ、私はアメリカに媚を売るような形で集団的自衛権の行使をすることには反対です。それはアメリカの決めた戦争に唯々諾々と参加せざるを得なくなることが明らかだからです。また、日米安保一体化の一環として、普天間飛行場の辺野古移設を強引に推し進めておられますが、これ以上強行されると、沖縄の人びととの間に流血の惨事が起きかねません。この件では、私が大きな責任を有していますし、辺野古に決めてしまったことを沖縄県民にお詫びいたします。ただ、翁長知事を筆頭に沖縄のみなさんは覚悟を決めておられます。辺野古は無理です。総理には民主主義を守っていただき、あらゆる可能性を、沖縄を含めアメリカ政府と検討していただきたいと願います。少なくとも私が総理のときにはアメリカには柔軟なところがありました。柔軟でなかったのは、むしろ日本の外務省と防衛省でした。北海道のある駐屯地では司令がすべての自衛隊員に遺書を書くことを命じました。こんな形で自衛隊員に苦しみを与えて良いと思われますか。
私は日本を「戦争のできる普通の国」にするのではなく、隣人と平和で仲良く暮らすにはどうすれば良いかを真剣に模索する「戦争のできない珍しい国」にするべきと思います。私が総理のときに訴えました「東アジア共同体」構想を、中国の習近平主席が唱え始めています。中国と韓国は自由貿易で結ばれていきます。アセアンも今年中に経済共同体が作られます。日本こそ、そして沖縄こそ、その結節点として立ち上がる時を迎えているのではないでしょうか。「戦争への国造り」から、「平和への国造り」へ総理の英断を求めます。
鳩山由紀夫氏
安倍総理大臣、私も総理として大変に稚拙だったと反省する身ですので、あなたに大きな顔をしてお説教をする立場ではないことを良く心得ています。ですが、せっかく機会をいただきましたので、国のあるべき姿について私見を述べさせていただきます。
安倍総理、あなたは昨年の総選挙で大勝利を収めました。勝ったのだから、自分の思い通りの法律を創るのだと力んでおられるようです。私は2009年民主党が大勝利し政権交代直後に、最もやりたかったのは、国家権力を強めるのではなく、一人ひとりの命を大切にする政治でした。安倍総理、あなたはなぜ今、時代に逆行して国家権力を強めようとされるのでしょうか。「国会運営は『国会は野党のためにある』の気持ちで」と竹下登元総理がいつも話されていたように、数を頼みに力で押し切るのではなく、野党や国民の声に耳を傾けることを心掛けることが大切ではないでしょうか。今、国民の多くが「戦争が出来る国」になることを心配しています。そして、安保法制の法案が今国会で成立することに反対しています。総理自身も「国民の理解が進んでいない」ことを認めておられますが、「国民の理解が進んでいない」というより、「国民の理解が進むほど反対が増える」と理解するべきでしょう。
なぜなら、総理の説明を伺うほどに、時代認識の誤りや矛盾に、国民は気が付き始めているからです。総理はことある毎に、「安保環境が大きく変わる中で」と枕詞のように話されます。世界情勢が緊張感を増してきているかのように聞こえますし、メディアもそのように報道します。総理は4、50年前の状況と比べておられるようですが、その時代には米ソ冷戦が激化し、キューバ危機やベトナム戦争がありました。今よりはるかに物騒な時代でした。現在の米ロが戦端を開くことはあり得ませんし、米中も戦争はしません。あまり報道されませんでしたが、昨年オバマ大統領が来日した際の記者会見で、「小さな岩のことで中国と争うのは愚の骨頂」と諌めた通りです。安保環境が悪化しているならまだしも、その時よりはるかに良くなっているにも拘らず、「戦争に参加するための法案」を、なぜ今更議論するのでしょうか。
総理は集団的自衛権を分かりやすく説明するつもりで、アメリカ本国や離れが火事の時に日本が火消しをすることだと例示されましたが、火事と戦争はまるで違います。火事は消せば済みますが、戦争は協力すれば、敵が攻撃する可能性が生まれるからです。後方支援は直接的な武力行使ではないと言い張っても、敵は兵砧を断つ戦略に出るのが鉄則ですから、真っ先に狙われます。逃げれば全滅でしょう。
また、総理はホルムズ海峡が封鎖されたら、日本に原油が来なくなる。だからホルムズ海峡に敷設された機雷の除去の手伝いをする必要性があると、しばしば例として挙げますが、これこそ時代認識の大きな誤りでしょう。総理は特定の国を想定していないと逃げていますが、イランを念頭においておられることは明らかです。かつて私がイランを訪問した際、国内から大きな非難を浴びましたが、そのときに私がアフマディネジャド大統領に申し上げたのは、原子力の平和利用に徹するとしても理解されるには時間がかかるので、日本を見習って辛抱強く対話路線で交渉してほしいということでした。その後、イランは辛抱強く対話を続けてくれたと思います。そして漸く6か国との協議が最終合意にまで到達しました。イランとアメリカやイスラエルとの間の不信感が完全に拭えたとは思いませんが、少なくともホルムズ海峡に機雷が敷設されるような環境では全くないことだけは明白です。総理は適切な具体的な例が見つからないので、このような例を挙げられたのだと推察いたしますが、具体的な例がないということは、法案に今日的な必要性がない証左でしょう。
総理、そもそも集団的自衛権を限定的であれ行使できるようにするには、憲法改正が必要です。どうしても行使すると言うのなら、憲法改正を堂々と行ってからです。国の安全保障の根本に関わる議論を変更するのですから、表玄関から正直に入らなければ、生涯禍根を残すでしょう。ただ、私はアメリカに媚を売るような形で集団的自衛権の行使をすることには反対です。それはアメリカの決めた戦争に唯々諾々と参加せざるを得なくなることが明らかだからです。また、日米安保一体化の一環として、普天間飛行場の辺野古移設を強引に推し進めておられますが、これ以上強行されると、沖縄の人びととの間に流血の惨事が起きかねません。この件では、私が大きな責任を有していますし、辺野古に決めてしまったことを沖縄県民にお詫びいたします。ただ、翁長知事を筆頭に沖縄のみなさんは覚悟を決めておられます。辺野古は無理です。総理には民主主義を守っていただき、あらゆる可能性を、沖縄を含めアメリカ政府と検討していただきたいと願います。少なくとも私が総理のときにはアメリカには柔軟なところがありました。柔軟でなかったのは、むしろ日本の外務省と防衛省でした。北海道のある駐屯地では司令がすべての自衛隊員に遺書を書くことを命じました。こんな形で自衛隊員に苦しみを与えて良いと思われますか。
私は日本を「戦争のできる普通の国」にするのではなく、隣人と平和で仲良く暮らすにはどうすれば良いかを真剣に模索する「戦争のできない珍しい国」にするべきと思います。私が総理のときに訴えました「東アジア共同体」構想を、中国の習近平主席が唱え始めています。中国と韓国は自由貿易で結ばれていきます。アセアンも今年中に経済共同体が作られます。日本こそ、そして沖縄こそ、その結節点として立ち上がる時を迎えているのではないでしょうか。「戦争への国造り」から、「平和への国造り」へ総理の英断を求めます。