ベビーブーマーが支払人から受取人へ
■ベビーブーマーのキャッシュフロー
巨大なベビーブーマー層が「将来の約束」を信じて総体として莫大なカネを毎月支払ってきた。税金だけでなく企業年金や公的社会保険や住宅ローン/自動車ローンの支払いなどなど。そのマネー(キャッシュフロー)が戦後金融の背骨であった(戦前は庶民金融はそこまで発達していない)。
*日本のGPIF(年金積立金管理運用独立法人)は世界最大級のファンド(運用資産130兆円以上)であり、これこそマネーの王様である。
しかしベビーブーマーが支払人から受取人に一斉にシフトすると、世界は一変してしまうだろう。巨大な流入キャッシュフローが巨大な流出キャッシュフローへ変わる。
巨大な流入キャッシュフロー 巨大な流出キャッシュフロー
↓ ↓
経済に活力と安定を与える 経済から活力を奪う
とりわけ公的年金については積立基金型ではなく賦課方式なので、キャッシュフローが流入から流出まで直線的につながっているはずである。社会保障のデフォルトやヘアカットは政治的に不可能なため、政府が赤字になるか現役世代から搾り取るかしなければ維持できない。
*日本の公的年金の暗黙の積立不足額は800兆円(負担総額950兆円-現在積立残額150兆円)ともされる。
・米国の主要公的年金、積み立て不足は220兆円-ムーディーズ(2014/9/25ブルームバーグ)
それは緩やかな漸次的変化ではなく、崖のようなインパクトを持つだろう。「これまでデフレだったがいずれ良くなる」ではなく、これらかようやく本番の冬に入る。
■「下げ潮」の巨大な波
ところで人口動態は経済の根底で大きな基調を作る。つまりそれは労働力人口減少(供給能力縮小)や人口高齢化(保険料入金/保険給付出金のアンバランス)がもたらす大きな「下げ潮」である。
かくして年金/医療の金銭的問題が生じてくる。
公的保険制度は金融的観点からは「安全な高リターン」が必要だ。しかし低成長と低金利では高リターンを得る先が限られてくる。AIJ事件のように危険な投資で年金がぱあになる時もある。
高成長期の社会保障 → 低成長期の社会保障
高保障/安全高利回り運用 税金つぎこんで高保障維持?
若者の収入を削り取って高保障維持?
超ハイリスク投機で危険高利回り運用?
年金/医療の社会保障制度の「逆ザヤ的」な破綻のツケが現在の現役世代に覆いかぶさっている。現在はこういう「下げ潮の時代」だと思う。介護の人材不足が叫ばれる中で介護報酬が引き下げられるのも、こうした公的医療/介護の収支が大きな金銭的圧力を受けているためであろう。
・【介護報酬2・27%下げ】人材確保見通せず介護報酬マイナス改定(2015/01/12共同通信)
これに打ち勝つためには、極めて高い成長/圧倒的な税収増/安全だが高い投資リターンがなければ長期的には収支が合わなくなる。
日本はアベノミクス以降、実質2%名目3%の成長が達成できることを前提として、プライマリーバランス黒字達成や消費税引き上げ実現可能性を打ち出してきた。それが実現できないなら、財政負担となって跳ね返ってくる。
・今後10年の平均で名目3%・実質2%成長目指す=成長戦略素案(2013/06/06ロイター)
■一次産業からの進化が裏目に出る時代
適切な経済/財政/金融政策があれば人口増大の勢いが高成長を生む。また人口縮小は成長の重荷となり、企業/家計のレベルではレバレッジ縮小となって低成長をもたらしていく。
一次産業の時代には「貧乏子沢山」は実は合理性がある。肉体労働主体なので教育コストが安い。またその頃は社会保障も微々たるものだったので、子供が親を支える場合には子沢山の方がいい。だが二次・三次産業時代では、教育コストも重いため貧乏子沢山というわけにはいかない。
例えば医師のような高度人材を一人養成するコストを考えてみたらいい。また社会保障制度が充実し国家が面倒を見る形になったため、老後のために子沢山という方向にはならない。
第一次産業(肉体労働)→ 移行/保障/技術革新 → 第二次・第三次産業 → ?
子沢山/教育コスト安 少子化/教育コスト高 人口縮小
上げ潮からバブルへ 停滞から下げ潮へ 下げ潮
人口問題は短期的には解決できず「下方向への圧力」は跳ね返しがたい。手っ取り早いのは移民政策で労働力と消費者、保険支払人を埋め合わせることだが、ナショナルな島国日本では政治的/社会的に不可能だろう。
デット・オーバーハングが新芽を摘む
ところで四世代くらいで世界は劇的に変化した。戦前の自由放任経済、戦時中の軍事社会主義(国家総動員)、戦後の社民主義というように。
とりわけ戦後の「ケインズ主義政策」は国家が経済・福祉に大きな責任を持ち、財政出動・金融介入を基軸に経済を支えてきた。これによって先進国で豊かな中流・ベビーブーマーが政治/社会/経済の基軸となった。第一次産業から移行する上ではうまく機能したと思う。
しかし結果的には、日米欧の先進国で多くの国が財政赤字等の問題を抱えることとなった。
*ただしドイツは2014年に財政黒字を達成し、2015年の国債発行はゼロになるとされる。
単に無借金経営が良い経営とは限らない。資本を有効に使うのが資本主義であろう。しかし債務が重過ぎると新芽を摘み取ることになり、新芽が育ちにくくなる。つまり、新しい儲けが古い債務を返済するために吸い尽くされる。優先権を持つ古い債務の返済に企業も精力を集中する。総合するとリターンは低迷する。これがデット・オーバーハングという状況だとされる。
・Debt overhang(wikipedia)
政府/企業/家計という国家経済の合算の中で、公的債務が重過ぎることは対岸の火事ではない。全体として新規借入による新規事業/新規設備投資など新しい芽が抑圧されることになる。
一企業で言えば、赤字不採算事業を黒字事業の儲けで補い続けるような現象であろうか。当然全体の伸びは低下する。民間経済で言えば、ゾンビ企業を救済するため有望企業を抑圧するような現象であろう。当然全体の伸びは低下する。そして日本がバブル崩壊後にやってきたことがまさにこれであった。
「その話しはもう止めよう」これが文系の世界かもしれない。それで済む。しかし、借金は「借金があることはもう忘れよう」とはできない。しかも借金は先送りすればするほど重くなる。
■ベビーブーマーのキャッシュフロー
巨大なベビーブーマー層が「将来の約束」を信じて総体として莫大なカネを毎月支払ってきた。税金だけでなく企業年金や公的社会保険や住宅ローン/自動車ローンの支払いなどなど。そのマネー(キャッシュフロー)が戦後金融の背骨であった(戦前は庶民金融はそこまで発達していない)。
*日本のGPIF(年金積立金管理運用独立法人)は世界最大級のファンド(運用資産130兆円以上)であり、これこそマネーの王様である。
しかしベビーブーマーが支払人から受取人に一斉にシフトすると、世界は一変してしまうだろう。巨大な流入キャッシュフローが巨大な流出キャッシュフローへ変わる。
巨大な流入キャッシュフロー 巨大な流出キャッシュフロー
↓ ↓
経済に活力と安定を与える 経済から活力を奪う
とりわけ公的年金については積立基金型ではなく賦課方式なので、キャッシュフローが流入から流出まで直線的につながっているはずである。社会保障のデフォルトやヘアカットは政治的に不可能なため、政府が赤字になるか現役世代から搾り取るかしなければ維持できない。
*日本の公的年金の暗黙の積立不足額は800兆円(負担総額950兆円-現在積立残額150兆円)ともされる。
・米国の主要公的年金、積み立て不足は220兆円-ムーディーズ(2014/9/25ブルームバーグ)
それは緩やかな漸次的変化ではなく、崖のようなインパクトを持つだろう。「これまでデフレだったがいずれ良くなる」ではなく、これらかようやく本番の冬に入る。
■「下げ潮」の巨大な波
ところで人口動態は経済の根底で大きな基調を作る。つまりそれは労働力人口減少(供給能力縮小)や人口高齢化(保険料入金/保険給付出金のアンバランス)がもたらす大きな「下げ潮」である。
かくして年金/医療の金銭的問題が生じてくる。
公的保険制度は金融的観点からは「安全な高リターン」が必要だ。しかし低成長と低金利では高リターンを得る先が限られてくる。AIJ事件のように危険な投資で年金がぱあになる時もある。
高成長期の社会保障 → 低成長期の社会保障
高保障/安全高利回り運用 税金つぎこんで高保障維持?
若者の収入を削り取って高保障維持?
超ハイリスク投機で危険高利回り運用?
年金/医療の社会保障制度の「逆ザヤ的」な破綻のツケが現在の現役世代に覆いかぶさっている。現在はこういう「下げ潮の時代」だと思う。介護の人材不足が叫ばれる中で介護報酬が引き下げられるのも、こうした公的医療/介護の収支が大きな金銭的圧力を受けているためであろう。
・【介護報酬2・27%下げ】人材確保見通せず介護報酬マイナス改定(2015/01/12共同通信)
これに打ち勝つためには、極めて高い成長/圧倒的な税収増/安全だが高い投資リターンがなければ長期的には収支が合わなくなる。
日本はアベノミクス以降、実質2%名目3%の成長が達成できることを前提として、プライマリーバランス黒字達成や消費税引き上げ実現可能性を打ち出してきた。それが実現できないなら、財政負担となって跳ね返ってくる。
・今後10年の平均で名目3%・実質2%成長目指す=成長戦略素案(2013/06/06ロイター)
■一次産業からの進化が裏目に出る時代
適切な経済/財政/金融政策があれば人口増大の勢いが高成長を生む。また人口縮小は成長の重荷となり、企業/家計のレベルではレバレッジ縮小となって低成長をもたらしていく。
一次産業の時代には「貧乏子沢山」は実は合理性がある。肉体労働主体なので教育コストが安い。またその頃は社会保障も微々たるものだったので、子供が親を支える場合には子沢山の方がいい。だが二次・三次産業時代では、教育コストも重いため貧乏子沢山というわけにはいかない。
例えば医師のような高度人材を一人養成するコストを考えてみたらいい。また社会保障制度が充実し国家が面倒を見る形になったため、老後のために子沢山という方向にはならない。
第一次産業(肉体労働)→ 移行/保障/技術革新 → 第二次・第三次産業 → ?
子沢山/教育コスト安 少子化/教育コスト高 人口縮小
上げ潮からバブルへ 停滞から下げ潮へ 下げ潮
人口問題は短期的には解決できず「下方向への圧力」は跳ね返しがたい。手っ取り早いのは移民政策で労働力と消費者、保険支払人を埋め合わせることだが、ナショナルな島国日本では政治的/社会的に不可能だろう。
デット・オーバーハングが新芽を摘む
ところで四世代くらいで世界は劇的に変化した。戦前の自由放任経済、戦時中の軍事社会主義(国家総動員)、戦後の社民主義というように。
とりわけ戦後の「ケインズ主義政策」は国家が経済・福祉に大きな責任を持ち、財政出動・金融介入を基軸に経済を支えてきた。これによって先進国で豊かな中流・ベビーブーマーが政治/社会/経済の基軸となった。第一次産業から移行する上ではうまく機能したと思う。
しかし結果的には、日米欧の先進国で多くの国が財政赤字等の問題を抱えることとなった。
*ただしドイツは2014年に財政黒字を達成し、2015年の国債発行はゼロになるとされる。
単に無借金経営が良い経営とは限らない。資本を有効に使うのが資本主義であろう。しかし債務が重過ぎると新芽を摘み取ることになり、新芽が育ちにくくなる。つまり、新しい儲けが古い債務を返済するために吸い尽くされる。優先権を持つ古い債務の返済に企業も精力を集中する。総合するとリターンは低迷する。これがデット・オーバーハングという状況だとされる。
・Debt overhang(wikipedia)
政府/企業/家計という国家経済の合算の中で、公的債務が重過ぎることは対岸の火事ではない。全体として新規借入による新規事業/新規設備投資など新しい芽が抑圧されることになる。
一企業で言えば、赤字不採算事業を黒字事業の儲けで補い続けるような現象であろうか。当然全体の伸びは低下する。民間経済で言えば、ゾンビ企業を救済するため有望企業を抑圧するような現象であろう。当然全体の伸びは低下する。そして日本がバブル崩壊後にやってきたことがまさにこれであった。
「その話しはもう止めよう」これが文系の世界かもしれない。それで済む。しかし、借金は「借金があることはもう忘れよう」とはできない。しかも借金は先送りすればするほど重くなる。