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『政府は必ず嘘をつく─アメリカの「失われた10年」が私たちに警告すること』

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ジャーナリスト・堤未果氏が2月に上梓した『政府は必ず嘘をつく─アメリカの「失われた10年」が私たちに警告すること』は、彼女がこれまでに発表してきた『ルポ 貧困大国アメリカ II』などでも評価を受けた非凡な洞察力により、一見バラバラに位置すると思われる911、311、TPPを貫く問題を明らかにしている。その基盤にあるのは『アメリカの「失われた10年」が私たちに警告すること』というサブタイトルにもあるように、アメリカの貧困化を目の当たりしてきたことがあるという。示唆に富んだ言葉には、日本が変わるためには、これからどのように社会と政治を見ていくべきなのかというヒントが隠されている。

日本の国民は日常の中で政治を意識しているか

── 『政府は必ず嘘をつく』というタイトルですが、誰のために嘘をつく、というタイトルですか。例えば犯罪を犯した犯人が嘘をつく、ということは自己弁護ですが、堤さんはどのような意味を込めているのですか。
これは敬愛する歴史学者ハワード・ジン教授の言葉です。「政府は嘘をつくものです。ですから歴史は、偽りを理解し、政府が言うことを鵜呑みにせず判断する為にあるのです」という言葉は、911後のアメリカと311後の日本両国にとって、とても多くの示唆を含んでいると思います。
「政府」というものは一度選挙で選んだら、あとは公約通り国民の利害のためにぜんぶやってくれるから、おまかせでOKです、ということは絶対ありえませんよね。本当は政府は「期待」するものではなく「監視」する存在。そこを誤解して有権者が政治から目を離したすきに政府があっという間におかしな方向に暴走したのが911後のアメリカでした。そして311後の日本も、今それと同じ方向に行き始めている。
ハワード・ジン教授もおっしゃっていましたが、「政府は嘘をつく」という言葉は他の国では過激だと受け取られません。実際311以降、日本にいる私たちの多くが、「お上に任せておけば安全」という思い込みを捨て去ったのではないでしょうか。

── 選挙では公約という国民との約束事があって、それで国民は選挙で有権者は代議士、代表を選ぶわけですよね。アメリカの例でもいいんですけれど、なぜ国民の代表が、国民に背を向ける、あるいは国民の期待と反することをやっていくんでしょうか?
先ほども言いましたように、公約は「守られて当然」ではなく、「守らせるもの」なのです。
本当は、選挙で国民の代表に選ばれた事で、政治家はスタート地点に立っただけ。そこからが本番ではないでしょうか。選挙と選挙の間に長い期間がある。衆議院だと4年。この間、有権者である私たちが議員たちに公約を守らせなきゃいけない。例えば私たちと同じ一票を持つ有権者である財界の人が自分のビジネスを都合よく展開させるような規制緩和を望む、あるいは労働組合の人が自分たちの身分を守ってほしいと願う。彼らは選挙と選挙の間も政治家から目を離しません。繰り返し働きかけ続ける。ロビー活動や献金に限りません。さまざまな形で、政治と日常をリンクさせている。すると財界や組合幹部と政府が癒着して、彼らの望む方向に政治が動いてゆくようになります。

── それはテクニカルな問題で、日本の国民はそういったロビー活動のテクニックが大企業と比較すると劣っているということですか。
テクニックの有無ではなく、有権者としての自分の力、役割を認識しているかどうかが大きいです。日常の中で政治を意識しているか、という違いだけで大きな差を生んでしまう。アメリカを見ているとよくわかります。アメリカで過去自分たちの要望を政策に反映させることに成功してきたグループをみると、アプローチの仕方はさまざまですが、共通しているのは、「政治から目を離さない事」「リアルタイムでその時何が一番効果的に政治家、あるいは世論を動かせるか」に関心を持ち続け、生活の中で小さな行動を続けています。ただしアメリカの場合は有権者が目を離しすぎていたせいで、規制緩和によって肥大化したウォール街を始め、1%層がほとんど政府を買ってしまった。こうなったらもとにもどすのはかなり至難の業です。日本はアメリカを反面教師にして、手遅れになる前にブレーキをかけなければなりません。

── 整理すると、政府は基本的に選挙で選ばれた議員により構成されているので、有権者のために政治活動をするべきである。選挙と選挙の間に、有権者のためということで政府に働きかける大企業のほうが、一般市民の個人個人よりも政府にとっては見えやすいし、はっきりわかる。だから政府にとっての有権者は大企業になってしまっているということですね。
日本国民も311以降、かなり大規模な脱原発・反原発デモや、官邸前の座り込みを続けています。反TPP署名は一千万人集めた。でも永田町の人々をみると、憎らしいことに痛くも痒くもないんですね。

── 人間の鎖で国会を取り囲んでも、変わらない。
やっても無駄、という事ではなく、政治の内部が昔と違う事が大きいと思います。
例えば今の与党民主党の政策決定プロセスをしっかり見てみて下さい。すごく独裁化して、野党の声も党内の反対の声も殆ど無視された強硬なやり方が常態化してしまっている。これは日本にとって深刻な危機ですが、一般の有権者たちにこの事実は殆どと言って良いほど届いていない。真っ先に追及する立場のマスコミがまともに報道しないだけじゃなく、国民が日常的に政治を見ていないことが、抜け穴を作ってしまっているのです。

── もし僕が大企業の社長だったら、この本のタイトルは企業のために政府は国民に嘘をついているんだなっていう理解になるし、企業は政府に対して働きかけているから、企業には嘘をつかないんだ、と思っているかもしれない。
このタイトルは、政府は大企業のために必ず嘘をつくので「国民は必ずチェックをし続けろ」、というセンテンスが繋がると考えていいのですね。
そういうことです。この前提から始めて、お任せはやめましょうと。為政者にとって、自分の頭で考える国民は簡単に操作できません。

アメリカは中流が消滅し、1%の層は収入が増え、第三国並みに二極化した

── TPPの問題もここで書かれていますけれど、僕がこの本を読む前にニュースで見てあれっと思ったのは、全米の自動車労働組合がTPPに反対していると。そうか、アメリカがぜんぶ賛成しているわけじゃなく、アメリカのなかでもTPPに反対している人たちがいるんだと気づきました。TPPだと、アメリカの自動車会社はアップルのように労働者の賃金が安いアジアに工場を移設する。アメリカの自動車産業の空洞化が懸念されると、もっと加速されるだろうと思うし、そういうことによって、労働組合は反対しているんだなと思ったんですけど、そこでアメリカっていう国が当然一枚岩でなくて、ここの本にも書かれているように、国境を越えたグローバル企業がいま支配している世の中になりつつあるということですね。
おっしゃる通りです。TPPというのは、やっぱり日本で多くの人が、TPPというひとつの条約しか見ていないんです。でもTPPというのは過去をみれば、NAFTA(北米自由貿易協定)やFTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)の続きです。ということは、まず「自由貿易」という歴史があって、今までそれがアメリカ型のグローバリゼーションをアフリカやアジアや南米に押し付けてきた経緯があり、その集大成がTPPなんです。
TPPだけ切り離して見ているとそれが見えない。加えて多くの人がこの問題を日米という二国間のフレームでしか見ない、これも本質を見誤ります。そうすると「TPPはアメリカの陰謀だ」、と過激になってしまう。でもこれは日本VSアメリカの構図ではないのです。
そこにはNAFTAの時の労働者たちのように結果として切り捨てられる側の層も出る。そこに国境はありません。こう考えて下さい。TPPでアメリカが日本にやろうとしていることを、アメリカはこの10年で自国民に対して行いました。次が日本なんです。アメリカ社会が今どうなっているかよく見て下さい。『貧困大国アメリカ』を読んで下さってもいいですが。

── アメリカが10年間やってきたことはこの副題にあるように、私たちがその10年間を見て、学ばなければということですね?
出来るだけ早く、出来るだけ多くの人に見てもらいたいと思いますね。手遅れになる前に。
特にこの10年間アメリカが貧困になっている最大の理由は、911で「ショック・ドクトリン」が使われたからです。
ショックドクトリンとは、この本にも書きましたが、ショックな事件があって国民の目が政治からそれた時に急激な規制緩和を行う手法の事です。
アメリカは80年代から進めていた規制緩和政策を911で一気に加速させました。

── それは先ほどからの話の流れでいうと、アメリカの大企業の有利なように規制緩和を一気に推し進めていって、アメリカはまず国内でこの10年、彼らが大手を振ってなんでもできるようにしたということと理解していいんですね。
そういうことです。特に政府が今までぜったいに市場として手を付けなかったエリア、例えば教育、底辺の為の医療保障、福祉、軍、自治体……次々に公を解体し市場化していった。
その結果中流が消滅しました。貧困率が1959年以来最悪になる一方、1%の層は収入が増えている。第三国並みの二極化です。

── 民主党の野田さんもそこまでバカじゃないので、堤さんがおっしゃったことくらいは誰から聞いて勉強していると思うんだけれど、なんで国民を、アメリカにではなくグローバル企業に売るようなTPPの交渉に挑むんでしょうか。僕らのチェックが足りないんでしょうか。
野田首相に聞いてみたらどうでしょう?野田さんだけでなく、この手の疑問はどんどん国会議員に聞いた方がいいです。私たちの代理である政治家には、答える義務がありますから。

── 労働者ではなく、企業と結託しているアメリカ側。 それは強欲からくる個人的なメリットなのか、でも彼らはとりあえず国会議員だったら国民全体のことを考えてほしいと願うんだけど。人の寿命なんてたかがしれているので、瞬間的に国会議員一族が栄えることより国民の繁栄を考えないのでしょうか。人間は強欲で目の前に金をぶら下げられると弱いんですかね。
人間は弱い生き物ですよ。そして国会議員も人間です。

── 今回のTPPに関しては、新聞社もテレビ局もTPPになったら自分の会社がマードックのような外資に買収される可能性があると思うわけです。いまは株主として外資の参入比率は規制されていますけど。TPPによりそれがぜんぶ撤廃されるというイメージがなぜメディア関係の社長にないのか、そこが不思議なんです。
買収されたとしても、上層部とその下の社員とでは受ける影響が違ってくるでしょう。そしてTPPの本質を知らない、という可能性もあります。私は企業関係者にもずいぶん講演していますが、「TPPの実態を初めて知った」という声がすごく多いですよ。もちろん知っていて推進の人もいます。立場によってはTPPで更に利益を拡大できる人もいるからです。1%か、99%か、どちらの側からみるかによって、TPPの意味は大きく変わります。

──日本のメディアも企業も、アメリカのコーポラティズムを理解していない。それはかなり悲しいですよね。 実感としてそうですか?
やはりテレビや新聞が抽象的に、または断片的にしか報道しないことが、実態をわかりにくくさせている最大の原因ですね。例えばこの本に描いたようにTPPとウォール街デモは同じ線上にありますが、それも切れ切れの報道からではみえてこない。そして日本の国民はまだまだテレビや新聞を唯一の情報源にして信頼しています。

── 大企業の社長も理解していないのですかね?
ええ。そもそもアメリカがこんなに貧困大国化してしまったことを、知らない人がものすごく多いです。特にわりと力があって、投票率が高い年齢層の人ほどそうですね。大企業のOB会で何回か講演しましたが、ある企業の会長さんが、「僕らにとってのアメリカは60年代、70年代のイメージで止まっている」とおっしゃった。その後80年代からコーポラティズムが押し寄せてきて、規制緩和で二極化したというところが抜けているんです。日本のマスコミはアメリカのその変化について報道しなかった。だから『貧困大国アメリカ』を出した時相当反響がありましたが、中でもアメリカの80年代以降の二極化、格差の性質が変わったことへの驚きがかなり大きかった。

── 確かに先日アカデミー賞の発表があったけれど、かつてのハリウッド映画の豊かなイメージが連綿と続いているのかな。
ハリウッド映画の影響は強力ですね。アメリカンライフスタイル、豊かな資本主義社会、欧米流の民主主義、個人主義、自由主義への美化されたイメージが広がる。

── 政府がだめならマディアが国民の側に立ってチェックしなければならないのに、一部メディアは政府によってコントロールされている。
そういえば、官房機密費が去年1年で通常の2倍以上使われたと、永田町で追及していた議員がいましたね。

── でも官房機密費の内訳は出せないですよね。
出せないですね。だけど明らかに倍以上になっていて、何かに使われている。ただ一度にお金が動いた時は、必ず何らかの結果が現れる筈です。だから私たちは逆算して結果を先にみて、流れをつかみ取るしかない。マスコミに限らず、学者や評論家、スポーツ選手、誰でもいいですが、急に足並みをそろえて態度を変えたのは、一体誰なのかを。

── メディアはスポンサーが引かれると成り立たなくなるので。
そうですね。だから完全に中立のメディアというのは幻想です。この本にも書きましたが、私たちに必要なのは中立メディアではなくカウンターになる存在です。映像だと今はニコ生みたいなノーカット動画とか。ツイッターは311直後からとっくに操作されているし、フェイスブックは利用者数が増える一方で、グーグル同様に欧米では不信感も広がっている。
日本でSNSは「チャンス」「革命」と絶賛されるけれど、あれは進化したただのツールです。しかも企業所有の。忘れちゃいけないのは、道具は使う側によって、その目的が180度変わる事。

── フェイスブックは何を売っているかというと個人情報でしかないので。個人が書きこめば書き込むほど彼らの売るものが増えていく。悪魔のシステムですね。
普通にマーケティングツールとしては最高ですね。創業者のマーク・ザッカ―バーグはフェイスブックについて、こんな発言もしています。
「かつて人間が作ったものの中で、最も強力な大衆操作ツールだ」

コーポラティズムにとって「国民」ではなく「消費者」が一番効率がいい

── アメリカの10年をいちばん取り入れようとしているのが、大阪の橋下市長だと思うんですけど。教育基本条例や自由化も含め、完璧にコーポラティズムを市政にぜんぶ入れようとしていますよね。どう思われますか?
「教育基本条例」を最初に読んだ時、2003年から追っていたアメリカの「落ちこぼれゼロ法」と内容が重なりびっくりしました。教育現場に市場原理と厳罰化を導入するという、サッチャーがやってブッシュがやったあの教育改革のことです。その後大阪で米国における「教育の市場化」について講演した時、参加者の中に毎日放送の人がいて、「これをぜひ番組にしたい」と言っていたのを覚えています。ただ市政は国政よりも、有権者と議会が近いです。大阪の有権者の動きはどうでしょう?

── 僕は大阪出身なんだけど、大阪は価値観が面白いか面白くないかなんです(笑)。右でも左でも自由でも不自由でも関係なく、面白ければいいんです。
ああ、大変やりやすい(笑)。

── なんといってもお笑いの横山ノックを知事に選んだところですから。最も操作しやすい府民性のところで市長になっていると思います。沖縄の普天間基地を大阪に持ってきてもいいと言いましたから。
もし浅井さんがコーポラティズムを進めたい1%の側なら、国民の抵抗なく進められる環境を作るために、何をしますか?

── 教育を低下させてバカな国民を増やすでしょうね。かなり成功していると思うけど。
なるほど。アメリカではよく、疑問を持たず、批判的思考ができず、政府のいう事を疑わない大衆が政治的にも商業的にも好ましいといわれます。「国民」ではなく「消費者」が一番効率がいいからです。

── 大量生産で作った均一なものをそういった人たちに売りやすいですよね。
何でも売りやすいです。消費者ですから。何より目の前の事を追うのに忙しくて政治に関心をもたないから、法律をいじりやすい。オバマ大統領もこの4年間で相当法改正しましたよ。

── 選挙から次の選挙まで、オバマは相当変遷しているわけですよね。それが黒人大統領が誕生した時の最初のオバマのスピーチ、そしてプラハでの核廃止宣言とかのイメージだけが刷り込まれていて、細かい法改正にサインしていることを何も伝えていないと。
ものすごい怖い法改正が、何十じゃ足りない、100は越えているんじゃないですか。それはこの本の主要テーマでもあるんですが、ある国の実態を知りたいと思った時、過去からの流れと、法律がどう変わったかというのをセットでみないと、ぜったいにわかりません。

── それは一般市民もそうだけど、日本の大企業、メディアの社長レベルでもわかってないことなんですか。
アメリカでもそうなんですが、「法律は難しい。弁護士や法学者の専門分野だ」として、自分とは切り離している国民がやっぱり多いのではないでしょうか。まあ、本当に難しい言葉が並んでいるのは確かなんですが、、全部理解しなくてもいいんです。方向性だけでいい。311後の日本で急激に国会で議題に上がってきている法案の数々、同じ方向を向いています。この事実だけでも関心を持たないと、あっという間に変えられてしまう。駅に立ってる国会議員でもつっついてわかりやすく説明してもらわないと。アメリカをみるとわかるように、法律は一度導入されると翻すのはとても難しいですから。

── アメリカは本気でアメリカのイメージを今までしてきたし、僕の経験でいくと数年前アメリカンセンターで試写会をやったとき、ロビーに古い写真が貼ってあって、戦後の日本に35ミリの映写機をアメリカ軍が持ち込んで、日本の人にハリウッド映画を野外上映で見せていた。アメリカってこんなすごいんですよって。職員の人に「こんなことをやってたんですね、今はどうしてるんですか、アフガンでやってるんですかね」って聞いたら笑ってました。日本はもう洗脳が完了したから、きっとアフガンでアメリカン・ドリームを見せていることでしょう。豊かな国・自由の国アメリカっていうイメージを、戦後のテレビドラマからなにから、国民を洗脳するシステムをエンターテインメントで作っていった。この本でカダフィとアラブ・アフリカの統一通貨“ディナ”のことは僕が知らなかったことでした。
ヨーロッパや中東では有名な話です。リビアはアフリカ一の埋蔵量を誇る石油だけでなく金も水資源も持つ豊かな国だった。それを裏付けとしてディナというアフリカ共通通貨を作る計画がありました。アフリカへの投資を広げている中国も賛成していました。

── 中国の資本主義とアフリカがくっつくのはアメリカにとっては最悪ですね。
そもそもカダフィは自分の国の国民のために石油や金のお金を使っていて、リビア人に聞くと「高福祉・高学歴で幸せな国だった」という声が返ってきます。だけど西欧にしてみたら都合が悪かった。だからカダフィが独裁と聞いたときに、反射的にアラームがなった。私が聞いていたリビア側からの声とずいぶん違うなと。その国が急に「独裁者と彼に苦しめられる可哀相な民衆」というイメージで報道され始めた。西側メディアの報道はイラクのフセインの時と全く同じ、「善 VS 悪」の構図のみ、ものすごい違和感でした。

── カダフィを独裁・悪人扱いでしたね。
アルジャジーラでさえも。

── この本のなかで、アルジャジーラがなぜ変わったかも書かれていますよね。イラク戦争では現地からの声を基づいた報道を行い評価を得たものの、その後何故、リビアの政権転覆やシリアの反政府運動の報道では情報操作が行われるようになったのか。
日本の記者会見のシステムにしても、警察を始めいろんな官僚の腐敗にしても、民主主義国家としてはありえないですよね。
かたちは民主主義で、選挙もあるけれど、いまどれだけ盗聴されて、どれだけネットを監視しているか。ネット監視法を民主党が法案通しちゃったじゃないですか。今度、すごい法案が提出されるんですけれど、秘密保全法(政府が検討している、外交・安全保障・治安・防衛などの国家機密の漏えいに対して罰則を強化する法案)というのがあって、これはかなり危険な内容です。
政府が機密とみなす情報を漏らした公務員が10年間禁固刑になるんですけれど、取材した記者側も罰せられるんです。取材の自由がかなり制限されてしまう。

── TBSの「運命の人」で再現していますけれど、日本政府の沖縄返還密約を暴いた西山記者は、あのときは有罪になったんですけど、それを法制化しようとするとは。
だから西山さんはこの法案にすごく反対しています。日弁連も。これ、通ったら311以降の政府発表の矛盾をついて真実を広げる事に貢献してきたフリーの記者たちや映像配信、ああいうのが出来なくなるかもしれません。これに限らず、深刻な懸念を感じる内容の法案が、民主党になって次々にまともな議論なしで通過してる。だから法律を見ないと。今自分の国がどっちの方向に向かっているのか知りたければ、法律を見たほうがいい。

── 立法こそ議員がやる仕事ですからね。
そう。だから政治は諦めちゃいけないんです。議員というのはどんなにスカポンタンに見えても、今はまだ減らしちゃいけない。何故なら減らしてしまえばそれだけ私達の声を届けるパイプの数が減るからです。一院制という案も出ていますが、チェックアンドバランスは、政治が独裁に走らないようブレーキをかけるために必要な、大事な機能ですよ。

── アップリンクで配給した『ザ・コーポレーション』という映画は、企業はサイコパスなので、企業を監視するための法律を作り規制をするのが議員だと。企業は株主のほうが優先されるが、議員は有権者が選ぶことも変えることもできるから企業を監視するのは議員しかない。と最後結んでいるんです。
まったく同感です。それがまさに、東日本大震災が日本に投げかけた、「国とは何か」という問いそのものではないでしょうか。よく企業の内部留保が多すぎる、リストラするな、というような声がありますが、企業に直接モラルを押しつけてもコントロールはできないでしょう。国が国民を守るために、ルールを作るしかないのです。だから最初の話題に戻るようですが、その為にはやっぱり私達有権者がもっと日常の中で政治を意識して、唯一立法の権限を持つ私たちの代弁者、「国会議員」をもっとうまく使ってゆく事が大切です。

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映画『ザ・コーポレーション』より

── アップリンクで『イエロー・ケーキ』というウラン鉱山の映画を上映したのですが、民主党の議員さんが2人来て話していて、「民主党って与党だけれど、私たちカースト制度でいちばん下なので、政府とは関係ないんです、何も言えないんです」って。「私は原発反対だし、八ッ場ダムは反対だし、ホームページに書いてあるけど」と言うので、「なんでそれやんないんですか」って聞いたら「それをやると委員会の委員長は一生できないぞって言われて」「そんなのものいいじゃないですか」「そう思って党内で反対はしてるけど、なんにも声は通らないですし、情報が来ないです」。民主党はひどいなと思って。
自民党よりひどい。一番怖いのはあの「独裁体制」ですね。それ自体に反旗を翻す勇気を持ってほしい。

── 政府や大企業のコマーシャルによる洗脳を解くためのツールとしてドキュメンタリー映画は有効だなと思っているんです。
確かにそうですね。だからこそドキュメンタリーの世界にもコーポラティズムが入ってきています。『Waiting For Superman』という、教育の自由化賛美の大変よくできたドキュメンタリーがアメリカで上映されて話題になりました。それからあの、核を扱っているのに広島長崎が出てこない『カウントダウンZERO』。

── カンヌのプレミア上映で観て、堤さんが書いていたとおり、広島・長崎の言及もなにもなく、いったい何のプロパガンダ映画なのって。オバマのプラハのときの核廃絶に沿った映画だなと思うんだけれど、一番核を持ってるのはアメリカなので、これ以上アメリカ以外核兵器は持つな、と。あれをプロデュースしたの『不都合な真実』のチームなんですよ。
やっぱり。『カウントダウンZERO』も、正義の側が持つのはOK、ならず者国家が持ったら爆撃するぞ、という図になっていてあきれました。
ドラえもんでいうと「ジャイアン論理」のこの映画を、昔から反原発の友人に熱心にすすめられたんです。だから映像の力ってすごいなと。まず感動させちゃう。その瞬間私たちの心は真っ白な白紙の状態になっていますから、そこでメッセージがするっと入る。だから浅井さん、ドキュメンタリーの裏ドキュメントを暴く企画を今度是非(笑)。

── 堤さんが日本のナオミ・クラインになったらどうですか。ナオミ・クラインの映画っていくつかあるんですが、アルゼンチンのところで書かれていたようなケースをレポートしている映画があります(『The Take』)。 311以降いろんなことがメディアの本質が暴かれてきたけれど、企業から市民団体まで講演をされていて、日本が大きく変わってるという実感はありますか。
いちばんわかりやすいのは、母親のグループが都内を中心にどんどんできてきていて、どんどん国会議員のところに乗り込んでいってる。その流れで子どもと母親を放射能から守る法案(「子どもと妊婦を守る法案」)が生まれ、成立しそうになっている。彼女たちは、それまで政治は男の人たちが話す話題だと思って避けてきたという層。それが第五福竜丸の時のように再び立ち上がっている。若い人たちも一生懸命に動いています。法律を作るということは、社会を動かすということです。去年オレゴンでタイム誌の記者にこう言われたんです。「今までは大量精算・大量消費でよかった。経済成長が目標でよかったとみんな思っていたのが、どうも日本を見たら違うらしい。じゃあ日本はどっちを目指すか、というのが今世界にとっての関心事だ」と。
日本は資本主義が暴走した今の世界で、その一歩先のモデルケースになれる可能性を持っています。

TPPを通して、教育も第一次産業も働くことも、政治との関係も、コアの価値観が問われている

── 本の最後に書かれていた「顔のない消費者でなく、人間らしく生きる」というのは同感です。誰の消費者かというと、企業のですよね。生まれたときから消費者なんていないですから。
戦後日本が貧しかった時代は会社で働き、企業のものを買い、国が栄えていったんだろうけど、今必要ないものまで大量生産で作っているものを、消費者っていう概念から、市民が脱しない限り、大きなマインドコントロールから脱することはできない。日本を豊かにするには物を買わなきゃだめ。消費しなきゃだめって政府は宣伝しますよね。買いたいものないんだけれど(笑)。形のある商品だけでなく情報や音楽や映画も消費する時代になった。だからそれら情報を消費するためのツールを製造するし、スマートフォンが売れる。エコカー減税が復活するのは消費者のためでなく、自動車会社だけを助ける政策ですよね。だから消費者という言葉を捨てなくてはならないとは、堤さんが言われているとおりだと思います。
消費者って選択肢がないですよね。延々買い続けるしかない。市民って選択肢がある。あらゆることにおいて、自分の人生とか未来を自分で決められるのが市民で、その権利を守るのが憲法で、その憲法を守るのが国会議員。ちゃんと国家は成り立つんですけれど、消費者になってしまうと、国籍もいらないし、性別もいらないし、顔も名前もいらない。ない方が都合がいいんです。生産の際にものや数になる。でもやっぱり私たちは数じゃなくて人間だから、自分で選択肢を持って、尊厳を持って生きたい。幸せになりたいとみんな思っています。
だからTPPというのは単なる貿易の話じゃなくて、人間らしく生きてゆく社会を目指すのか、それとも1%の価値観の中でモノとして生かされるのか、の選択だと思うんです。TPPを通して、実は教育も第一次産業も働くことも、政治との関係も、全部に関わるコアの価値観が問われている。ばらばらの点で議論していても、きっとどこにも辿りつけないんじゃないかなと。だから今回の本では、全部一本の線でつないでみたんです。

── 最後に聞きたいのですが、なぜ野村證券に勤めたんですか、完全にコーポラティズム側ですよね。
まさに(笑)。私、国連の後アムネスティ・インターナショナルというNGOにいたんですけれど、みんなすごく質素で、スーツよりネルシャツにジーンズにフリマで買ったスニーカー、みたいな格好。志はあるので、毎晩遅くまで熱く語るし、みんな一生懸命人権のために時間とエネルギーを捧げるんですけれど、何と言うかお金を敵視する空気があったんです。だけど、お金の論理がこの世界をまわしているわけだし、資本主義とか企業とかマーケティングとかビジネスとかそういうものをまったく排除して、理想だけでやる事に疑問を感じて。いい事をしてるんだという思いから頭でっかちになってゆく人もみて、そうなりたくないなあと言うのもあったし。 ならば今のうちに180度逆側、拝金主義の中心のウォール街を経験してこよう、と。

── 911をきっかけに退社されて、かつて野村證券に勤めたいたということは、今の著作活動になにかプラスになっていますか。
「お金の流れ」を通して国内外のニュースをみるようになったことですね。通貨や経済がわからないままで政治だけみていたら、今回の本のような、1%やコーポラティズムの方向性は見えなかったと思う。金融業界にいた事がこんなところで役立つとは……人生ってうまくできてますね。あの時雇ってくれた野村証券に感謝です。

(取材・文:浅井隆 構成:駒井憲嗣)



堤未果 プロフィール
ジャーナリスト、東京都生まれ。和光小、中、高卒業後、アメリカに留学。ニューヨーク州立大学国際関係論学科卒、ニューヨーク市立大学大学院国際関係論学科修士課程修了。国連婦人開発基金(UNIFEM)、アムネスティ・インターナショナルNY支局員を経て、米国野村證券に勤務中に9・11同時多発テロに遭遇。以降日本─アメリカ間を行き来しながら、ジャーナリストとして各種メディアで発言、執筆・講演活動を続ける。
http://mikatsutsumi.org/

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