静岡市北部の南アルプスをリニア中央新幹線が通る計画が発表され、昨年には工事の認可が下りています。この工事により、大井川の流量が毎秒2トンも減少してしまうという話があり、大井川の恩恵を受けている人たちが心配しているところです。
しかしながら、リニア新幹線建設の影響は水問題だけではありません。動物・植物・生態系などへの影響、大量の残土を山中に捨てる問題、景観の破壊など環境に直接与える影響や、日本でもトップクラスといわれる隆起を続ける南アルプスを横断するという問題なども考えられます。また、JRがおこなった環境影響評価に問題があるとの声も聞かれ、漠然とした不安を感じているところでした。
そこで、「百聞は一見にしかず」という言葉があるとおり、標高2千メートルを超えるところに残土を捨てるという扇沢という場所を、実際にこの目で見てくることにしました。扇沢は、登山基地である二軒小屋から伝付峠を登り、稜線を2km程北上した場所にあります。伝付峠付近の林道は長い間廃道になっていましたが、4年ほど前にまた整備をするらしいという話を聞いていました。
扇沢は、その名の通り川下側が扇の要のように狭くなっており、地形図からはその要のところに堰堤を作ると、効率よく残土処分が出来るように見えます。しかし、現地では斜面のあちこちが崩壊していて、安定している地盤とはとても思えませんでした。ここに残土を大量に捨てた場合、大規模な崩壊が起きても不思議ではない、というより、たぶん起こるだろうなと感じました。
ここに残土を捨てるという発想から、リニア中央新幹線計画の自然に対する考え方や、建設に向けた工事が何年も前から実質的に始まっているのではないかということがわかりました。今後、この事業がどのように進められていくのかわかりませんが、後生のためにも、かけがえのない南アルプスの自然環境が破壊されないことを祈るばかりです。
何でも南アルプスを横断するトンネル工事を請け負う業者が決定したそうである。
一部引用
着工したのは同トンネルの東端にあたる山梨県側の工区7.7キロ。今年3月から公募型の入札手続きを進めていたが、大成と佐藤工業、錢高組の3社によるJVが施工者に決まり、26日付で契約した。
山梨側と合わせ、南アルプス横断25㎞のトンネルについては、半分以上の区間について、工事請負業者を決定するところまで計画が進められていることになりますな。
けれども工事の具体的な内容とか環境保全策といったものについては、ほとんど決まっていないのが現状。決まっていないというよりも、地元との合意が全く成立しそうにない、と言った方が正しいかもしれない。
例えば発生土処分。
南アルプスを横断する約25㎞のトンネル本体と、その関連トンネルからは、合計約827万立方メートルの発生土が生じる。早川町側へ232万立米、静岡市へ360~370万立米、大鹿村へ235万立米である。
(補足)
山梨県早川町にも大量の発生土が出される。地形的に行き場はないはずであるが、山梨県による道路整備事業の建設資材に転用するということで話がまとまっている。JR東海と建設費を折半し、南アルプス北部の夜叉人峠付近で、トンネル新設を含む大規模な道路整備を行うという計画であるが、アセスは行わず、詳細な事業計画も不明のまま、事業化が決定されている。このため早川町における発生土処分計画はクリアしたことになり、工事見積もりが行えたのだと考えられる。
トンネル工事の工期や工法を見積もる場合、ズリ処理、つまり発生土の処分計画を考えることが欠かせないそうだ。掘削⇒覆工⇒発生土搬出というサイクルをいかに効率よく行うかにより、工期や工費が大きく左右されるわけである。もちろんトンネルそのものの工事だけでなく、仮置場・最終処分場までの運搬費用、発生土の造成費、環境対策費用など、様々な要素が左右される。
つまり、このサイクルを見積もって工事費を算出するためには、発生土の処分計画について、ある程度メドをつけておかなかったはずである。
…と思っていたら案の定、現在浮上してきている候補地に発生土を置けるという前提で工事入札を開始したのだという。
静岡市に出される発生土360~370万立米について、JR東海は大井川の河原に超巨大盛土として積み上げるということを計画しているが、ここは大規模崩壊地の直下であり、絶滅の恐れのある高山蝶の数少ない目撃情報のある地でもある。安全性、環境面に加え、河川法や森林法といった法的な面からも、ここに置けるかどうかは定かでない。
すなわち、おおいに問題のある場所である。けれども(容積の面から)代替地は皆無なので、ここに置けないとなったら、静岡市部分における発生土処分計画は根本的な見直しが必要となる。
それにもかかわらず、早川側・大鹿側における発生土処分計画が、決定してしまえば、中間の静岡に出される発生土の量も360万立米という数字のまま、事実上確定してしまうことになる。根本的な環境保全策は発生土量の見直しであるが、その道は閉ざされることになる。
発生土の他にも…住民の意識聴取、河川流量の減少問題、景観問題、生態系保全、ユネスコエコパークとの整合性と国際社会への説明義務…住民との合意成立も環境配慮も放置されたまま、工事内容は秘密裏に進められていると感じが拭えない。
こんな進め方しかできないというのなら、実に情けないんだけど・・・。
社会的に大きな影響を与える事業を完成させるのであれば、カネや技術面でクリアするだけでなく、その影響を受ける社会の合意を取り付けなければならないと思う。
けれど、こんな進め方をしておいて、住民の信頼を得られるはずがない。
路線の概略は…
山梨県富士川町最勝寺(標高280m)から丘陵地帯のトンネルに入る。
1本目のトンネルは長さ約800m。
三枝川で一瞬地上(乗車時間にして約6秒)に出て、2番目のごく短いトンネルを通り、もう一度川を渡って3番目のトンネル(第三南巨摩隧道:長さ2520m)に入る。
ちなみに、1本目のトンネル坑口となる丘陵と盆地との境目がA級と判断される市之瀬断層であり、糸魚川-静岡構造線系の活動領域。
富士川町の高下集落付近で地上に出て、350mほど(約2.5秒)地上を走行した後、4番目のトンネル(第四南巨摩隧道)に入る。これは長さ約8627mと長大であり、大柳川の上流域をごく薄い土被りでくぐりぬけ、早川町新倉にいたる。
早川の橋梁は長さ400m程度(約2.5秒)であり、高さは約170mと、とてつもなく高くなる。
早川の橋梁を渡ると5番目のトンネルに入る。
これが南アルプス本体の赤石山脈を貫く長大トンネル(南アルプス隧道)である。
この長大トンネルは長さが約25000mあり、早川流域から上り勾配(推定00.3パーミリ)で大井川流域をくぐり抜け、荒川岳直下からは下り勾配(推定0.4パーミリ)となり、小河内沢の下をくぐり、長野県大鹿村日向休という地点で小渋川の谷底に出る。
転付峠付近での土被り1000m前後、大井川上流部で450m前後、悪沢岳北方から小河内岳付近までが1000~1400mとなっている。1本のトンネルを掘るために7本の斜坑と並行する先進坑、残土運搬トンネル2本、合わせて10本の作業用トンネルが掘られる 。
小渋川の橋梁は長さ約250m、高さ70m程度である。
これを渡る(1~2秒)と6番目のトンネル(伊那山地隧道)に入る。長さ15000mほどであり、途中で中央構造線を貫く。青木川、虻川といった川を、50m程度とごく薄い土被りでくぐりぬける。青木川を越えた付近から勾配は0.02パーミル程度になる。豊丘村・喬木村境の壬生沢川という川で地上に出る。500mほど地上を通り(約3.5秒)、7番目の短いトンネル(約200m)で河岸段丘を抜け、天竜川橋梁にいたる。
ちなみに最勝寺から天竜川の間、地上を走行するのは合わせて16~17秒程度。
当初は中央本線に沿って迂回する案も検討されましたが、「速達性を重視したい」というJR東海の主張に整合させるために、「自然環境はルート選定材料にしない」という意味不明な理由をつけて、トンネルで貫くことになりました。
南アルプス横断 びっくり仰天内容
①南アルプス穴だらけ トンネル総延長は120㎞!
先に述べたトンネルについて、一覧表にまとめてみました。列車の通るトンネルは合計52~53㎞であり、これでも十分に長いのですが、実は作業用など関連トンネルのほうが長くて、少なくとも計約67
㎞。合わせて120㎞にもなります。
表1 南アルプス市~豊丘村におけるトンネル計画(評価書に基づく)
種別位置または名称 長さ
本坑 (断面積108㎡) 最勝寺-畦沢のトンネル
※800m
畦のトンネル
※50m
第三南巨摩隧道
2,520m
第四南巨摩隧道
8,627m
南アルプス隧道
25,019m
伊那山地隧道
15,300m
阿島付近のトンネル
※200m
本坑 合計約 52,500m
先進坑 (55㎡) 南アルプス隧道に平行
※25,000m
その他のトンネルにも設けられるかは不明 先進坑合計 少なくとも 25,000m
斜坑 (68㎡)青崖東
1,800m
青崖西
2,500m
広河原
3,900m
二軒小屋南
3,500m
西俣
3,100m
釜沢東
2,000m
釜沢北
400m
上蔵
900m
青木
700m
坂下
1,300m
戸中
1,000m
斜坑 合計約 21,100m
工事用道路トンネル(41㎡)大井川の西俣~東俣
※2,100m
大井川の東俣~扇沢源頭
※3,000m
導水路トンネル (5~10㎡?) 大井川の西俣直下~椹島
※12,000m
早川芦安連絡道路 (山梨県とJR東海の共同事業)夜叉人峠付近
※約3,700m
その他の関連トンネル 合計約 20,800m
トンネル合計
約 119,400m
※は評価書など各種資料から推定
その他のトンネルおよび名称は事業認可申請書類より
2015年9月24日、JR東海は工事用道路トンネルについて、表記された2本を中止して4500m1本に変更する計画を発表。
各トンネルの位置についてはこちらを参照
②残土発生量がとんでもない量
環境影響評価書に記載された発生土量をまとめました。
表2 南アルプス市~豊丘村における発生土量
搬出場所 発生土量(万立方ートル)
南アルプス市 各所
小計 160,000
富士川町 小林地区
51,000
最勝寺地区
642,000
高下地区
1,819,000
富士川町 小計 2,512,000
早川町 青崖東の斜坑
940,000
青崖西の斜坑
840,000
広j河原の斜坑
1,480,000
切土
3
早川町 小計 3,290,000
静岡市 2斜坑・工事用道路トンネル・導水路
静岡市 小計 3,400,000~3,600,000
大鹿村 釜沢東・釜沢西
1,600,000
上蔵
750,000
青木
650,000
切土
5
大鹿村 小計 3,050,000
豊丘村 坂下地区
1,000,000
戸中地区
55,000
源道寺地区
700,000
豊丘村 小計 2,340,000
JR東海の直接事業による発生土量合計
約15,000,000
早川芦安連絡道路(山梨県とJR東海の共同事業)
推定400,000~500,000
早川至康連絡道路を除き、数字は評価書記載事項に基づく。静岡市内の発生土量については評価書作成時では360万立方メートルであるが、その後、計画が二転三転しており、これよりやや少ない可能性がある。(2015年9月末時点)
表2のとおり、南アルプスを横断する南アルプス市、富士川町、早川町、静岡市、大鹿村、豊丘村において、合わせて1500万立方メートルもの発生土が生じます。東京ドーム一杯で126万立方メートルですから、実に12杯分です。ちなみに、ユネスコエコパーク登録地域内へは1050万立方メートル前後となります。
③大井川沿いの河原と森をつぶし、長さ1㎞、高さ50mにわたる巨大盛土を造成。
美しい渓谷を潰すという計画であるにもかかわらず、この残土処分場建設に対する環境アセスメントはマトモに行っていません。山崩れの直下であり、土砂の流動に与える影響も不透明。河川法の観点からも問題。
⑩行政が環境影響評価の簡略化を手助け?
リニア建設にともなう発生土については、JR東海がその取扱いについて、環境影響評価を行わなければなりません。ところが山梨県早川町においては、発生土を県が大半を出資する道路建設事業での建設資材に位置付け、県が使うことから環境影響評価の対象から外れてしまいました。この道路建設事業はJR東海も出資するとともに、南アルプスの山中で大規模な工事をおこなうことから、このような進め方には問題があります。
⑥早川橋梁は前例のない規模
とても険しい早川の峡谷に架けられる橋は、長さ350m、高さ170m程度とみられる。きわめて急峻なV字谷なので、おそらく山腹内をえぐって地下に作業用地が設けられるのでしょう。
⑦鉄道建設の環境アセスメントで、ふつうこんな植物名が出てくる?
ゴゼンタチバナ、タカネフタバラン、クルマユリ、ツバメオモト、オサバグサ、メタカラコウ、マルバダケブキ、ヤマイワカガミ、ハリギリ、トモエシオガマ、イワオウギ、ナナカマド、ミネザクラ、ダイモンジソウ、オサバグサ、ルイヨウショウマ、ダケカンバ、オオシラビソ、コメツガ…
名前を聞いて姿をイメージできた方は植物通あるいはベテラン登山家。いずれも相当な山奥に行かねば見ることのできない植物ですが、こういう植物相の場所で工事を計画しているわけです。ちなみに静岡県内の現地調査において見つかった植物756のうち、ざっと見て2~3割は亜高山帯の植物種。
⑧ユネスコエコパーク制度との整合性がとれていないし、とろうともしていない。
南アルプスは2014年6月に、ユネスコエコパークとして登録されました。ユネスコエコパークは厳正な環境保全の要求される核心地域、それを守るための緩衝地域、持続可能な自然資源の利活用の許される移行地域とで構成されています。JR東海は、工事は全て開発の許される移行地域で行われるから問題はないという認識を示していますが、それは移行地域の概念を曲解したものではないでしょうか?
そして、ユネスコエコパークの環境保全は国際的な責務を負うのですが…。
しかしながら、リニア新幹線建設の影響は水問題だけではありません。動物・植物・生態系などへの影響、大量の残土を山中に捨てる問題、景観の破壊など環境に直接与える影響や、日本でもトップクラスといわれる隆起を続ける南アルプスを横断するという問題なども考えられます。また、JRがおこなった環境影響評価に問題があるとの声も聞かれ、漠然とした不安を感じているところでした。
そこで、「百聞は一見にしかず」という言葉があるとおり、標高2千メートルを超えるところに残土を捨てるという扇沢という場所を、実際にこの目で見てくることにしました。扇沢は、登山基地である二軒小屋から伝付峠を登り、稜線を2km程北上した場所にあります。伝付峠付近の林道は長い間廃道になっていましたが、4年ほど前にまた整備をするらしいという話を聞いていました。
扇沢は、その名の通り川下側が扇の要のように狭くなっており、地形図からはその要のところに堰堤を作ると、効率よく残土処分が出来るように見えます。しかし、現地では斜面のあちこちが崩壊していて、安定している地盤とはとても思えませんでした。ここに残土を大量に捨てた場合、大規模な崩壊が起きても不思議ではない、というより、たぶん起こるだろうなと感じました。
ここに残土を捨てるという発想から、リニア中央新幹線計画の自然に対する考え方や、建設に向けた工事が何年も前から実質的に始まっているのではないかということがわかりました。今後、この事業がどのように進められていくのかわかりませんが、後生のためにも、かけがえのない南アルプスの自然環境が破壊されないことを祈るばかりです。
何でも南アルプスを横断するトンネル工事を請け負う業者が決定したそうである。
一部引用
着工したのは同トンネルの東端にあたる山梨県側の工区7.7キロ。今年3月から公募型の入札手続きを進めていたが、大成と佐藤工業、錢高組の3社によるJVが施工者に決まり、26日付で契約した。
山梨側と合わせ、南アルプス横断25㎞のトンネルについては、半分以上の区間について、工事請負業者を決定するところまで計画が進められていることになりますな。
けれども工事の具体的な内容とか環境保全策といったものについては、ほとんど決まっていないのが現状。決まっていないというよりも、地元との合意が全く成立しそうにない、と言った方が正しいかもしれない。
例えば発生土処分。
南アルプスを横断する約25㎞のトンネル本体と、その関連トンネルからは、合計約827万立方メートルの発生土が生じる。早川町側へ232万立米、静岡市へ360~370万立米、大鹿村へ235万立米である。
(補足)
山梨県早川町にも大量の発生土が出される。地形的に行き場はないはずであるが、山梨県による道路整備事業の建設資材に転用するということで話がまとまっている。JR東海と建設費を折半し、南アルプス北部の夜叉人峠付近で、トンネル新設を含む大規模な道路整備を行うという計画であるが、アセスは行わず、詳細な事業計画も不明のまま、事業化が決定されている。このため早川町における発生土処分計画はクリアしたことになり、工事見積もりが行えたのだと考えられる。
トンネル工事の工期や工法を見積もる場合、ズリ処理、つまり発生土の処分計画を考えることが欠かせないそうだ。掘削⇒覆工⇒発生土搬出というサイクルをいかに効率よく行うかにより、工期や工費が大きく左右されるわけである。もちろんトンネルそのものの工事だけでなく、仮置場・最終処分場までの運搬費用、発生土の造成費、環境対策費用など、様々な要素が左右される。
つまり、このサイクルを見積もって工事費を算出するためには、発生土の処分計画について、ある程度メドをつけておかなかったはずである。
…と思っていたら案の定、現在浮上してきている候補地に発生土を置けるという前提で工事入札を開始したのだという。
静岡市に出される発生土360~370万立米について、JR東海は大井川の河原に超巨大盛土として積み上げるということを計画しているが、ここは大規模崩壊地の直下であり、絶滅の恐れのある高山蝶の数少ない目撃情報のある地でもある。安全性、環境面に加え、河川法や森林法といった法的な面からも、ここに置けるかどうかは定かでない。
すなわち、おおいに問題のある場所である。けれども(容積の面から)代替地は皆無なので、ここに置けないとなったら、静岡市部分における発生土処分計画は根本的な見直しが必要となる。
それにもかかわらず、早川側・大鹿側における発生土処分計画が、決定してしまえば、中間の静岡に出される発生土の量も360万立米という数字のまま、事実上確定してしまうことになる。根本的な環境保全策は発生土量の見直しであるが、その道は閉ざされることになる。
発生土の他にも…住民の意識聴取、河川流量の減少問題、景観問題、生態系保全、ユネスコエコパークとの整合性と国際社会への説明義務…住民との合意成立も環境配慮も放置されたまま、工事内容は秘密裏に進められていると感じが拭えない。
こんな進め方しかできないというのなら、実に情けないんだけど・・・。
社会的に大きな影響を与える事業を完成させるのであれば、カネや技術面でクリアするだけでなく、その影響を受ける社会の合意を取り付けなければならないと思う。
けれど、こんな進め方をしておいて、住民の信頼を得られるはずがない。
路線の概略は…
山梨県富士川町最勝寺(標高280m)から丘陵地帯のトンネルに入る。
1本目のトンネルは長さ約800m。
三枝川で一瞬地上(乗車時間にして約6秒)に出て、2番目のごく短いトンネルを通り、もう一度川を渡って3番目のトンネル(第三南巨摩隧道:長さ2520m)に入る。
ちなみに、1本目のトンネル坑口となる丘陵と盆地との境目がA級と判断される市之瀬断層であり、糸魚川-静岡構造線系の活動領域。
富士川町の高下集落付近で地上に出て、350mほど(約2.5秒)地上を走行した後、4番目のトンネル(第四南巨摩隧道)に入る。これは長さ約8627mと長大であり、大柳川の上流域をごく薄い土被りでくぐりぬけ、早川町新倉にいたる。
早川の橋梁は長さ400m程度(約2.5秒)であり、高さは約170mと、とてつもなく高くなる。
早川の橋梁を渡ると5番目のトンネルに入る。
これが南アルプス本体の赤石山脈を貫く長大トンネル(南アルプス隧道)である。
この長大トンネルは長さが約25000mあり、早川流域から上り勾配(推定00.3パーミリ)で大井川流域をくぐり抜け、荒川岳直下からは下り勾配(推定0.4パーミリ)となり、小河内沢の下をくぐり、長野県大鹿村日向休という地点で小渋川の谷底に出る。
転付峠付近での土被り1000m前後、大井川上流部で450m前後、悪沢岳北方から小河内岳付近までが1000~1400mとなっている。1本のトンネルを掘るために7本の斜坑と並行する先進坑、残土運搬トンネル2本、合わせて10本の作業用トンネルが掘られる 。
小渋川の橋梁は長さ約250m、高さ70m程度である。
これを渡る(1~2秒)と6番目のトンネル(伊那山地隧道)に入る。長さ15000mほどであり、途中で中央構造線を貫く。青木川、虻川といった川を、50m程度とごく薄い土被りでくぐりぬける。青木川を越えた付近から勾配は0.02パーミル程度になる。豊丘村・喬木村境の壬生沢川という川で地上に出る。500mほど地上を通り(約3.5秒)、7番目の短いトンネル(約200m)で河岸段丘を抜け、天竜川橋梁にいたる。
ちなみに最勝寺から天竜川の間、地上を走行するのは合わせて16~17秒程度。
当初は中央本線に沿って迂回する案も検討されましたが、「速達性を重視したい」というJR東海の主張に整合させるために、「自然環境はルート選定材料にしない」という意味不明な理由をつけて、トンネルで貫くことになりました。
南アルプス横断 びっくり仰天内容
①南アルプス穴だらけ トンネル総延長は120㎞!
先に述べたトンネルについて、一覧表にまとめてみました。列車の通るトンネルは合計52~53㎞であり、これでも十分に長いのですが、実は作業用など関連トンネルのほうが長くて、少なくとも計約67
㎞。合わせて120㎞にもなります。
表1 南アルプス市~豊丘村におけるトンネル計画(評価書に基づく)
種別位置または名称 長さ
本坑 (断面積108㎡) 最勝寺-畦沢のトンネル
※800m
畦のトンネル
※50m
第三南巨摩隧道
2,520m
第四南巨摩隧道
8,627m
南アルプス隧道
25,019m
伊那山地隧道
15,300m
阿島付近のトンネル
※200m
本坑 合計約 52,500m
先進坑 (55㎡) 南アルプス隧道に平行
※25,000m
その他のトンネルにも設けられるかは不明 先進坑合計 少なくとも 25,000m
斜坑 (68㎡)青崖東
1,800m
青崖西
2,500m
広河原
3,900m
二軒小屋南
3,500m
西俣
3,100m
釜沢東
2,000m
釜沢北
400m
上蔵
900m
青木
700m
坂下
1,300m
戸中
1,000m
斜坑 合計約 21,100m
工事用道路トンネル(41㎡)大井川の西俣~東俣
※2,100m
大井川の東俣~扇沢源頭
※3,000m
導水路トンネル (5~10㎡?) 大井川の西俣直下~椹島
※12,000m
早川芦安連絡道路 (山梨県とJR東海の共同事業)夜叉人峠付近
※約3,700m
その他の関連トンネル 合計約 20,800m
トンネル合計
約 119,400m
※は評価書など各種資料から推定
その他のトンネルおよび名称は事業認可申請書類より
2015年9月24日、JR東海は工事用道路トンネルについて、表記された2本を中止して4500m1本に変更する計画を発表。
各トンネルの位置についてはこちらを参照
②残土発生量がとんでもない量
環境影響評価書に記載された発生土量をまとめました。
表2 南アルプス市~豊丘村における発生土量
搬出場所 発生土量(万立方ートル)
南アルプス市 各所
小計 160,000
富士川町 小林地区
51,000
最勝寺地区
642,000
高下地区
1,819,000
富士川町 小計 2,512,000
早川町 青崖東の斜坑
940,000
青崖西の斜坑
840,000
広j河原の斜坑
1,480,000
切土
3
早川町 小計 3,290,000
静岡市 2斜坑・工事用道路トンネル・導水路
静岡市 小計 3,400,000~3,600,000
大鹿村 釜沢東・釜沢西
1,600,000
上蔵
750,000
青木
650,000
切土
5
大鹿村 小計 3,050,000
豊丘村 坂下地区
1,000,000
戸中地区
55,000
源道寺地区
700,000
豊丘村 小計 2,340,000
JR東海の直接事業による発生土量合計
約15,000,000
早川芦安連絡道路(山梨県とJR東海の共同事業)
推定400,000~500,000
早川至康連絡道路を除き、数字は評価書記載事項に基づく。静岡市内の発生土量については評価書作成時では360万立方メートルであるが、その後、計画が二転三転しており、これよりやや少ない可能性がある。(2015年9月末時点)
表2のとおり、南アルプスを横断する南アルプス市、富士川町、早川町、静岡市、大鹿村、豊丘村において、合わせて1500万立方メートルもの発生土が生じます。東京ドーム一杯で126万立方メートルですから、実に12杯分です。ちなみに、ユネスコエコパーク登録地域内へは1050万立方メートル前後となります。
③大井川沿いの河原と森をつぶし、長さ1㎞、高さ50mにわたる巨大盛土を造成。
美しい渓谷を潰すという計画であるにもかかわらず、この残土処分場建設に対する環境アセスメントはマトモに行っていません。山崩れの直下であり、土砂の流動に与える影響も不透明。河川法の観点からも問題。
⑩行政が環境影響評価の簡略化を手助け?
リニア建設にともなう発生土については、JR東海がその取扱いについて、環境影響評価を行わなければなりません。ところが山梨県早川町においては、発生土を県が大半を出資する道路建設事業での建設資材に位置付け、県が使うことから環境影響評価の対象から外れてしまいました。この道路建設事業はJR東海も出資するとともに、南アルプスの山中で大規模な工事をおこなうことから、このような進め方には問題があります。
⑥早川橋梁は前例のない規模
とても険しい早川の峡谷に架けられる橋は、長さ350m、高さ170m程度とみられる。きわめて急峻なV字谷なので、おそらく山腹内をえぐって地下に作業用地が設けられるのでしょう。
⑦鉄道建設の環境アセスメントで、ふつうこんな植物名が出てくる?
ゴゼンタチバナ、タカネフタバラン、クルマユリ、ツバメオモト、オサバグサ、メタカラコウ、マルバダケブキ、ヤマイワカガミ、ハリギリ、トモエシオガマ、イワオウギ、ナナカマド、ミネザクラ、ダイモンジソウ、オサバグサ、ルイヨウショウマ、ダケカンバ、オオシラビソ、コメツガ…
名前を聞いて姿をイメージできた方は植物通あるいはベテラン登山家。いずれも相当な山奥に行かねば見ることのできない植物ですが、こういう植物相の場所で工事を計画しているわけです。ちなみに静岡県内の現地調査において見つかった植物756のうち、ざっと見て2~3割は亜高山帯の植物種。
⑧ユネスコエコパーク制度との整合性がとれていないし、とろうともしていない。
南アルプスは2014年6月に、ユネスコエコパークとして登録されました。ユネスコエコパークは厳正な環境保全の要求される核心地域、それを守るための緩衝地域、持続可能な自然資源の利活用の許される移行地域とで構成されています。JR東海は、工事は全て開発の許される移行地域で行われるから問題はないという認識を示していますが、それは移行地域の概念を曲解したものではないでしょうか?
そして、ユネスコエコパークの環境保全は国際的な責務を負うのですが…。