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シューマン ピアノ五重奏曲 変ホ長調 Op.44

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シューマン ピアノ五重奏曲 変ホ長調 Op.44


この曲も、いわゆるシューマンの「室内楽の年」、つまり1842年に書かれたものだ。
シューマン32歳の秋である。彼はわずか数週間でこの曲を書き上げた。
現代でも室内楽の重要なレパートリーの1つだが、作曲当時の評価は様々だったようである。
ライプツィヒのケヴァントハウスで初演された際、聴衆の中にいたフランス・ロマン派の作曲家ベルリオーズは、ドイツ・ロマン派に批判的であったのだが、この作品を聴いて非常に感激したと伝えられている。
また、シューマンの家でこの曲を聴いた作曲家リストはちっとも気に入らなかったようで、その後2人の間が疎遠になったようだ。
当時ではまだ珍しかった、弦楽四重奏とピアノという編成は、珠玉のピアノ作品の多い彼にとっては、必然だったのかもしれない。
やや古典的な香りの中に、シューマンらしい濃厚なロマン派の色気が織り込まれているが、ロマン的な趣を担うのは主にピアノの役目である。
それはピアノ五重奏のスタンダードとも言えるが、シューマンの場合は一層、ピアノが入ると入らないとでは、その魅力に激しく差があるように思う。
シューマンの良さの1つはそこだとも言える。

NHK-BSでエール弦楽四重奏団と伊藤恵さんの共演によるシューマンのピアノ五重奏曲の放映を見ました。若手特有のバリバリ弾く感じを想像していたのですが、抑制の効いた美しい演奏だったように感じました。個人的には、シューマンのロマン性をもう少し強調してもよいのではと思いました。

力強く、活力みなぎる1楽章、葬送行進曲風の2楽章、3楽章は勢いのあるスケルツォ、それらを纏め上げるソナタ風の4楽章。
全体的にシューマンにしては自由さに欠ける、やや形式ばったような雰囲気だが、その古典的手法が、シューマンのロマン主義をより充実させている。
僕には、シューマンが鍛えたこの古典的な技法が、彼の見る大きな1つの夢に、はっきりとした輪郭を与えているように思えるのだ。
憧れのような輝かしさ、哀しみと慈しみ、青春のような快活さ、それらを色鮮やかに映し出す、シューマンのロマン主義的な精神に溶け込んだドイツ古典的な技法。
それがこの曲の魅力を引き出しているのだが、この曲の素晴らしさはそこだけに止まらない。
白眉は4楽章のクライマックス。荘厳な二重フーガで再び1楽章の第1主題が現れると、今までの夢は一体何だったのか、その答えが現れてくる。
彩られた夢に少しのノスタルジーが重なり、時間を越えた希望と豊かな響きを残して、幕を閉じる。

ある人に室内楽で初心者にわかりやすい名曲はと聞かれました。さて、そういうふうに考えたことがないものですからちょっと困った。わかりやすいというのは覚えやすいという事だろうと勝手に解釈・・・。

『そうですね、モーツァルトのクラリネット五重奏曲、ベートーベンのヴァイオリン・ソナタ「春」、シューベルトのピアノ五重奏曲「ます」、メンデルスゾーンの弦楽八重奏曲、ブラームスの弦楽六重奏曲第1番、ドヴォルザークの弦楽四重奏曲「アメリカ」・・・・・・・・』ときて、いけませんね、大事なのを忘れてた。

ロベルト・シューマンのピアノ五重奏曲 変ホ長調 作品44

これで決まりでしょう、覚えやすいのは。とにかく複雑難解なところがありません。元気溌剌と始まる第1楽章、いきなり出るのが第1主題です。たおやかな第2主題は楽器のかけあいで(以上が「提示部」)。ちょっと緊張感のある「展開部」が続いて、またまた元気溌剌の第1主題が再登場(これが「再現部」)。展開部と同じ出だしで「終結部」(コーダ)へ。もう絵にかいたようなソナタ形式ですね。

第2楽章はハ短調の葬送行進曲。覚えやすいメロディーです。中間部はとてもシューマンらしい(気取って「シューマネスク」なんていう人もいます)ロマン的な緩徐部が激しい楽想をはさみこむ形式になります。第3楽章はスケルツォで、音階を上がったり下がったりでこれもすぐ印象に残ると思います。そして終楽章、またまたいきなり第1主題が。解説いりませんね。最後はこの主題が第1楽章の主題と組み合わされて二重フガートになり、堂々と全曲を結びます。

どことなくモーツァルトのジュピターとベートーベンの英雄をミックスした小型版という感じのコンセプトでしょうか。弦楽四重奏にピアノを加えた編成はそれまであまりなく、この曲が有名になった第1号です。シューマンがクララと結婚して2年目の32歳の秋にわずか1か月強で一気に書かれました。彼はあるジャンルにのめりこむとそればかり集中して作る傾向のある人で、作品1から23はピアノ曲ばかり、1840年は歌曲の年、41年は交響曲の年、そしてこれを作曲した42年が室内楽の年と呼ばれます。

★苦難を乗り越えた結婚、そして数々の傑作の誕生

自分のピアノの先生の娘と恋に陥る、、、。別に悪いことをしているわけではないから問題はなさそうだが、シューマンの場合、敬愛する先生から大反対されてしまう。かつては自分の家に居候させた位シューマンを気に入っていたはずのヴィーク先生は彼のどこが気に入らなかったのだろう?
天才ピアニストの娘クララが可愛いくて仕方がなかったのはもちろんだが、きっとこう感じたからに違いない。「この男と結婚さすれば、娘は必ず不幸になる」
シューマンは生涯で何度か自殺を試みている(最初は23歳の時)。精神分裂症、躁鬱病など、彼の病名については色々な説があるのだが、才能があったにもかかわらず作曲をはじめとする活動に波があるのもそのせいかもしれない。ヴィーク先生はシューマンを居候させた時代に、今風にいえば「アブナイ男」、と予感したのかもしれない、、、。
先生の妨害はすさまじかった。両者何年もの争いの後、最後は裁判で決着をつけてシューマンとクララは1840年にめでたく結婚する。先生は床に崩れ落ち、両手で床を叩きながら悔しがったかもしれない、、。
でもふたりは幸せだった。とりわけシューマンは人生で最も至福の時を過ごしただろう。その証拠に結婚以後数年は彼の多作期が訪れる。自ら「歌の年」と命名した1840年、1841年は「管弦楽の年」、そして1842年は「室内楽の年」。
彼の室内楽曲の中で特に傑作として名高い「ピアノ五重奏曲」(作品44)はこの時期に生まれた。

★音の厚み、ピアノと弦楽四重奏の絶妙なコンビネーション

まず音の厚みに驚かされる。弦楽四重奏とピアノが奏でる音である。厚みがあるのは当たり前だ。それが半端ではないのだ。第一楽章の冒頭、全部の楽器が一斉に奏でる音楽はまるでファンファーレのよう。ピアノ、高音と低音の楽器の音色がまさにぴったりと息をあわせて高らかに歌っている。
その後すぐに、ロマンチックなメロディがピアノ先導で進む。控えめ弦の併奏も美しい。静かな曲想になった時のチェロのソロ、、、、哀愁を帯びていてシビレルのだ。もちろんその時に他の弦楽器やピアノが全く目立たないけれど、要所要所でいい音を出してくる。聞いていて耳を常に暖かくしてくれるのである。絶妙なコンビネーションとはこのこと。
音色を堪能し、躍動的な曲想に心奪われあっという間に終わる第一楽章。続く第二楽章はこれまた叙情的な楽章なのだ。解説等では葬送行進曲風と書いてあるものもあるが、そういうイメージは私の場合全く感じられれない。むしろ心の葛藤を音楽で表現しているのでは、と想像しながら聞いている。重苦しいイメージと対照的に安らぎ溢れる曲想もあるが、それは心の葛藤の中、なんとかして光を探し続けているような気がしてならない。中間部は静かな嵐のよう。
まるで音階練習か?という第一印象の第三楽章は、それこそ息をつく間もない活発で力がみなぎる曲だ。楽器が奏でるメロディは音を順に上下しているだけのようなのだが、その組み合わせで見事な和音になっているのだ。シューマンの豊穣なアイデアが光っている。後半から少し民族音楽的なメロディに転化していくのも興味深い。楽章の終わりはまさにクライマックスのよう。第三楽章を終章にしてもおかしくないくらい、充実した音楽である。(私のお気に入りであるアルバン・ベルク四重奏団のカーネギーホールでのライブでは思わずここで拍手が起こる!)
終わったかと思う第三楽章の後、唐突に現れる第四楽章。これは第三楽章の後半以上に民族色溢れている。もちろんこの作品の根底に流れるメインのメロディが骨格になって音楽は造られているけれど、民族色を添えることにより、より親しみやすくなっている。途中の弦楽器とピアノ低音部との会話も楽しい。第三楽章までで終わった後、この楽章をアンコール曲のように聞いている私は、変わり者かもしれないけれど、あの興奮もののアンコール演奏の雰囲気がこの第四楽章では味わえるのだから嬉しい。特に終盤で第一楽章のメロディをもとに全部の楽器で繰り広げられるフーガは本当に圧巻!

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この五重奏曲を聞くと「力がみなぎって」来る。この二日間こちらは大雪で、あっという間に真っ白な冬の景色となった。雪のしんしんと降る中、路面を覆う雪に足をとられながらジリジリと歩き進む。ふつうならうんざりするはずだった。でも、この美しく力強いピアノと弦楽の音楽が耳から注入されていたせいだろう気持ちが萎えることなく、ただひたすら前に進めた。雪の白さ冷たさを顔で感じた。心地よかった。美しい音楽に力をもらうなんて、ちょっと嬉しいな。

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